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ザ・モンスターのEikeのレビュー・感想・評価

ザ・モンスター(2016年製作の映画)
3.3
若い母親とその一人娘が森の中で怪物に襲われるという低予算のモンスターホラー。
今時どうかと思うような設定ですが本当にそのまんまの内容となっています。

この設定・ビジュアルからはあまりピンと来るものもなかったのですが、主演がゾーイ・カザン嬢ということで興味が湧きました。
地味ながら拾い物だった「ルビー・スパークス」(主演に加えて脚本も担当)や、全く接点の無い男女が突然世界を共有する羽目となるユニークな恋愛ファンタジー「イン・ユア・アイズ」などで注目を集めた才媛がこのB級色の濃いジャンル作品に何故出演しているのか。
等と思いつつ鑑賞してみると割と早い段階で納得。
と言うのも本作、B級モンスターホラーの見かけとは裏腹に「ドラマ」としての側面がかなり強い作品なのです。

カザン嬢演じるヒロインは別れた夫の元に一人娘のリジーを送り届けるべく雨が降りしきる中、深夜に車を走らせます。
酒に溺れ母親としての自覚に欠けた彼女はそんな自分に自己嫌悪を抱えつつ娘に愛想を尽かされて彼女がもう戻ってこないのではないかという予感を抱いて不安を抱えております。
そんな母娘が強い雨の中、どことも知れぬ森の中で交通事故に遭う。
負傷し、携帯電話で救援を求めた二人に暗闇の中から怪物が迫る…。

と、ここまでで冒頭の約30分。
ホラー映画としてのおぜん立てが揃うまで、ほぼこの親子による二人芝居が続きます。
しかも森の中で孤立無援となった二人に脅威が迫るモンスターホラーへとギアがシフトした後もフラッシュバックでこの親子の過去の経緯が度々挿入されております。
如何にも古典的な手法ではありますがこんなストレートなアプローチの作品もここの所、とんと見かけなくなりましたから逆に新鮮でもありました。

こうした点から明らかなのは、実は本作の狙いは怪物ホラーの部分にはないということ。
事実、この怪物の正体や生態などSF/ホラー要素への配慮は必要最低限に抑えられております。
その意味でシンプルなモンスターホラーを期待する観客にとってはちょっとノリが悪いと感じる作品であるのかもしれません。
その一方で、この危機的状況に置かれる母と娘を突き放して描くのではなく、あくまで二人の関係性に焦点を当てることでドラマとして見る側の関心を掴む効果が生じているのもまた事実。

そうなると要はドラマとホラー要素とのバランスのとり方が重要な訳ですが、そこは見る側の好み次第といったところでしょうか。
ただ、このシリアスな本格ドラマとB級色も濃厚なモンスターホラーとのミックスは珍しく、意外と楽しんで鑑賞してしまいました。

ドラマ色が強いと書きましたが中盤以降、モンスターホラーの定石にのっとった演出は盛り込まれており、ジャンル作としての体裁自体を捨てるような愚は犯しておりません。
しかしそうしたホラー部分の描き方も母と娘のドラマのための道具という風に感じてしまうと、やはりホラーファンとしては不満が残るかもしれません。

そういう訳で好き嫌いが分かれる作品という気がいたしましたがシリアスドラマとモンスターホラーの融合を目指したその心意気は買いたいと思える作品に仕上がっております
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