蒼井ことり

ユリゴコロの蒼井ことりのネタバレレビュー・内容・結末

ユリゴコロ(2017年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

おや?点数が低いんですね。

〈忘備録〉
朝ドラで一年近く拘束されるから、出演俳優は映画に出始める。有村架純、佐藤健、そして松坂桃李。
今日は13日の金曜日。
すごい映画を見てしまった。☆4.4くらいかな。大好きな吉高ちゃんが出るというから観に行った。
全編圧倒されちゃって。身じろぎできなかった。目が離せなかった。
ご飯を食べて行ったら胃酸が逆流しそうだった。中盤、松ケンが出てくるまではとにかく怖くて怖くて怖くて、おぞましくて気持ち悪い展開で。
私は佐津川愛美ちゃん?の演じてたミツコが、なんどもなんどもリスカするのが怖くて怖くて。自分もACでボーダーっぽいところがあるけと、リスカのシーンが生理的にダメ。
手首を切る効果音を聞くのが辛いのと、血が流れている映像に弱い。リアルに痛くて痛くて。
あと小学生の男の子が鉄板の下敷きになって死ぬシーン。足がピクピクしていて怖かった。しかも、のちのちとても重要なシーンとなるので(男の子を救出しようとする善人の大学生が松ケンで、それを手伝うかと見せかけて鉄板を落下させるのが中学生だったのでミサコなので。2人がのちに結婚するとも知らずに出会っているシーン。)、同じシーンが回想として何度か出てくる。夢に出そう。うなされてそう。
桃李くんの中で何か(殺人鬼の血?)が目覚めて、レストランの仕込みをしている時に無心でにくを包丁でミンチにしているシーンも怖い。PG12指定だけどR18でもいいかも。そらか怖いシーンについての注意喚起がいるかも。とにかくリスカのシーンは辛くて目を瞑ったり、耳を塞いだりしていた。

嫌いなシーン、苦手なシーンがたくさん出でくるわけだけど、総合的にはとても良くて出来ていたと思う。(※しかし映画というのは面白いもので、点数を低くつけたものの方が好みだったり、高くつけたものが必ずしも自分のベストテンにランクインするとも限らない)。
ストーリーが緻密でまとまりが良い、過去と現在の二重構造だけど、混乱せずすっきり進行する。
キャストの熱演も素晴らしい。特に吉高由里子と松坂桃李。桃李くんはここまでやれると思ってなくて驚いた。目の演技がいい。爽やかな青年から暴力的な言動をするようになっていく変貌ぶりはすごい迫力。彼は好青年なのにどこか暗いというか影があるよね。
吉高ちゃんも松ケンの、芸達者のコンビネーションにワクワクした。松ケンも猟奇的な役がすごーく上手だと思うけど、今回はとことん優しい善人役。彼にこの作品は救われてる。
そして毒々しい色合いに映える吉高由里子は本当に綺麗。。。
白い肌、きらめく黒い瞳、艶のある黒髪、小ぶりで口角の上がった赤い唇、小さくきゅっとしまった小顔と輪郭。
古風な顔立ちをしているので昭和風のワンピースやコートもよく似合う(花子とアンの女学生の袴姿も似合ってた)。
品がいいのに、はすっぱな役を同時に内包させられる、若手女優(中堅に差し掛かるか?)の中では稀有なひと。
売れても体当たりの難しい役に挑むひと。バラエティなんかで見る彼女はほわわ〜んとしてるのに、演技となると、ガラリと変わってこうだもの。能面みたいに怖い演技に、艶っぽい表情や切ない泣き顔…。彼女は本当に“女優さん“なんだなぁと思わされる。
「蛇にピアス」からずっとファンだけど、いつも新たな面を見せてくれて、どんどん好きになっちゃう。


ミサコの子役パートは、ビビットな色彩と深い陰影、子役の恐ろしい表情(楳図かずおとか丸尾末広とか古屋兎丸的な)恐怖に歪んだカメラワークでかなり質の高い美しく怖い和製ホラーに仕上がってると思う。こういうの観たことなかった。
子役パートから引き続き、全編とおして独特な映像美も堪能できる。過去パートの昭和な風景をあえてレトロで毒々しいあざやな色いにしているのが、古くて懐かしい感じもするのに、反面怖い感じもする不思議な味わい。
赤玉ポートワインの古い看板。売春婦(立ちんぼっていうの?)、公衆電話、家具やベビーベット、子供用おもちゃのレトロな感じ、昭和40代くらいなのかな?
昭和の人工的な映像に反して、現在パートの長野県あたりの映像は緑をはじめ自然な風景が美しいし、リョウヘイ営む木造のレストランの映像は、目に優しいアットホームな色彩に包まれている。


元々、原作が面白いんだろうけど、ものがたりの緩急のつけ方がうまく、まったく飽きさせない。特に過去と現在の緩急のつけ方が秀逸。
ミサコ(吉高由里子)が主人公となると、恐怖と戦慄の過去パートで、私は胃酸を戻しつつ、リョウヘイ(松坂桃李)が主人公となる現在パートで、実直で明るい世界に戻されてほっと一息つけさせられた。
しかしそんなリョウヘイも、恋人の失踪を機に、徐々に増え常軌を逸脱し、現在パートも恐怖に染まっていくのだった…。その代わりに、今度は暗黒の過去パートが、天使のような松ケンの登場で愛と再生、癒しの物語に逆転していくのがおもしろい。
過去と現在で、まったく別々の話が進んでいくので二度おいしい(実は別々なようで繋がっているのだが)。
清野菜名はどこへ消えた?木村多江の登場はちょっと違和感がない?いったい桃李くんは吉高ちゃん・松ケンとどう絡んでいくのか?と色々な疑問符が並び、早く次の展開が見たい!見たい!と思わされられた。
あたかも別次元にあるかのような過去と現在の物語は、次第にうまくリンクして集結していく。
もし自分が桃李くんの立場だったら、やっぱり生家の前で立ち尽くし、ただ涙を流すしかないかもしれない。突然父とはの血の繋がりがない事実を知り、母は殺人鬼だという事実を知らされるなんて、 あまりにも途方がなさすぎて。。。
でもきっと松ケンの優しさが、愛情が、桃李くんをまっすぐな道に進ませるはずだ。数日後には先に亡くなるであろう父の不在は、殺人鬼の血を一瞬自覚した桃李くんへの不安材料ではあるが…。
きっと、大丈夫。だってこれは、たとえシリアルキラーの話でも、ただのシリアルキラーじゃない、愛を知ったシリアルキラーの物語なんだから。リョウヘイの血にはその愛だって流れているはずなんだから。。。


境界性人格障害や愛着障害、社会不安障害は経験者というか、実体験のある当事者なので心理がわかるが、反社会性人格障害については分からない。
そう、以前から常々疑問に思っていた。もし、自分が反社会性人格障害、いわゆるサイコパス…とりわけ殺人に対して嗜好性を持つシリアルキラーなタイプに生まれていたらどうなっていたんだろうと?
どこまでその罪は裁かれるんだろうかと?
そのことを考えると、ただでさえよく分からなあ人間の性善説、性悪説についての結論がますます出なくなってしまう。
そんな私の問いに、あるひとつの回答をくれた作品でもあった。吉高ちゃん演じるミサコはいわゆるシリアルキラーだと思う。タバコやお菓子やギャンブルがやめられないのは罪に問われない。では殺人が好きだとどうなるのか?
好きだからやめられない。それを彼女はユリゴゴロと呼ぶ。ユリゴゴロを感じると、殺すしかないと。殺している間は、拠り所のない自分の心に感情が芽生えるんだと。
これはまったく彼女の嗜好、性癖のようものであって、本人に懺悔や悔恨の念がない。
しかし松ケン演じる男性(桃李くんのお父さん)と出会ってからは、シリアルキラー・ミサコには暖かい人間らしい、血の通った感情が生まれた。そこ以降犯す殺人には、罪の意識を感じたんだろうか。「赤ちゃんが体から出てしまえば、私は憑き物がとれたようでした」とのモノローグどおり、すっきりした表情、母親の顔付きに切り替わる吉高ちゃんの演技から察するに、その後の殺人にはもちろん嗜好性はなく、懺悔や悔恨の念を感じていたかもしれない。
しかし、タバコやお菓子じゃ死ねない。
たとえ嗜好の対象が殺人でも…死にこともできないから、仕方なく生きてくしかなかったんだろう。。せめて嗜好が別のものだったら。

ただ、ヤクザ事務所の皆殺しっぷりはやはりすごいなと思う。いくら息子のためでも、女性1人で男性数名相手にあんなことできないでしょ、普通。異常性癖であることには違いない。

振り返るとテレビCMではかなりネタバレしてたんだなぁと思う。殺人犯が愛で癒されていく物語なんだろうなぁと。ただ、そらは一要素であり、物語の総括的に捉えると、その斜め上を行っていた。
CMで吉高ちゃんが泣いてるシーンは、自殺を促されたダムのシーンだったとはね。
松ケンと吉高ちゃんのラブシーンがちらりと映っていたから、ん?じゃあ桃李くんが余るけどどういう立ち位置なの?とか、そもそもユリゴゴロって何なの?と、映画を見る前から疑問符が飛び交っていた。ハートフルな女性ボーカルの主題歌と映像が重なって、ありがちな軽いクライム系のラブストーリーかなぁ?と。
そして本編を観だすと、裏切られた。そんなやわな作風じゃなかったのでぽかんと空いた口がなかなか閉じられなかった、

なかなか松ケンが出てこないから、ん?いつ出でくるの?ん?あー、キタキタ!そうあうポジションだったかぁ!とか、桃李くんだから料理人なんだ〜とか、いちいち驚いたりしていた。
「あなたの優しさには容赦がありませんでした」だっけ?確かにそうでした。松ケンは本当に天使でした。この2人の出会いは運命だったと思います。
生半可な人じゃユリゴゴロで殺されてしまう。天使でなければ堕天使の相手は務まらないから。
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