深獣九

拷問男の深獣九のレビュー・感想・評価

拷問男(2012年製作の映画)
4.0
この映画は“ホラー”ではない。狂気でもない。快楽殺人者の話でもない。幼い娘を失ったすべての父親の悲しみを代弁した、ドキュメンタリーだ。

タイトルが『拷問男』だし確かにエグいシーンもクオリティ高いのだが、やはりこれは悲しい物語なのだ。
同じ境遇の者ならば、過去に父親デレクと同じことを考えたであろうに違いない。つまり犯人への復讐。
娘と同じ目に合わせてやりたい。ズタズタにして後悔の悲鳴をあげさせたい。エンドロールで紹介された数多の事件。被害者の肉親で、こう思わなかった者は誰ひとりいないだろう。

陳腐な感想をご容赦いただきたいのだが、もちろんデレクのしたことは許されないし、ましてや相手が相手だ。完全に賛否が分かれるだろう。だが、この映画を通して救われる者も少なくないに違いない。そういう文脈で捉えると、ホラーに分類されているのが本当に惜しい。娘を失ったデレクが、半年間も涙に暮れているシーンがある。監督はデレクと同じ心情を持つ者たちを、なんとか救ってあげたかったのだろう。拷問シーンはおまけみたいなものだ。ホラー好きおじさんの私が言うのもアレだが。

もしかしたら監督は、この映画を多くの人に観てもらいたいと思い、ホラー要素を強めにしたのではないか。話題になってほしいと。さらにうがった見方をすれば監督自身か、ごく近い者がデレクと同じ境遇だったのではないか。あいつを捕まえたらこんなふうに痛めつけてやろうと、日頃から妄想していたのではないか。拷問シーンの凄みを見れば、そう思わずにいられない。
なにせ拷問は6日間も続けられた(実際は4日くらいか?)。拷問は体力も気力も半端なく必要だ。特に精神力。ただの一般人が、肉体損壊と溢れ出る血を見て平気なわけがない。ましてやじっくりいたぶるなんて、快楽殺人者でもなければできるわけがない。
だから、もしかしたら実話ベースなのか……と。

父親役マイケル・トムソンの演技も素晴らしい。悲しみにあふれた瞳、相手を痛めつける想像をしているときの恍惚、拷問を執行するときの怒りを超越した表情……ぶっといボルトが胸に刺さるようだ。
調べたら映画の出演はあまりないようだ。もったいないと思う。

冒頭に流れる娘との思い出のシーン。この先なにが起こるか、知っているから余計に痛ましい。スタートボタンを押してしまったことを、秒で後悔した。でも、最後まで観てよかった。心構えができた、というと不謹慎と思われるだろうが、何かあったときのために心を鍛えておくことは大切なのだ。
ちなみに私はひとりで乗るエレベーターが目的階以外で止まったときは、必ずゾンビが乗り込んでくるシミュレーションをしている。もちろん逃げおおせるために。準備は大事なのである。

最後に少しだけ。
デレクは怒りが過ぎるあまり、ある才能を開花させてしまった。そう、拷問の才能である。何かの感情が頂点を超えると、人は次のステージに進むのだ。あらためて感心した。すみませんちょけました。

つらい話だが『震える舌』を乗り越えた方は、本作もきっとだいじょうぶだと思う。頑張ってください。

ひとつも拷問方法に触れない私の心情をお察しください。
本当につらかった。
深獣九

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