jonajona

私はあなたのニグロではないのjonajonaのレビュー・感想・評価

4.5
白人は問わなければならない
なぜニガーが必要だったのかと。
私をニガーだと思う人は
ニガーが必要な人だ。

マジックアワー映画10本セットのうちの1本。本作があったので購入を決めまして、あと1週間ちょいで期限切れちゃうので急いで見ました。

アメリカにおける黒人差別の歴史を、マルコム・キングらの暗殺の歴史やメディアにおける黒人需要の歴史から紐解いていく。
現在、白人警官から首を圧迫拘束され死亡した(殺害ですよね)ジョージ・フロイドさんを切っ掛けに大きな人種対立の暴動デモが起こってる。差別主義の権化たるトランプ大統領は自国民に軍を動員してでも騒動を鎮圧すると声高に宣言する。20世紀最大の疫病になり得るコロナショック下でやはりこうした対立構造がより鮮明に浮き上がってくるのは偶然ではなく必然なのだと、本作を見てボールドウィンの話を聞いてるとそう思う。

○GOOD
・黒人差別の歴史を、単にどんな酷い目に合ってきたかという紹介に留まらず、なぜ白人は黒人を奴隷として扱い差別し続ける病理的な性質を捨て切ることが出来ないのか?という観点から語ってる点。
本作中で黒人差別の歴史はアメリカの歴史と断言されてるように、白人はアメリカという国を生み出す過程で黒人を『ニグロ』に仕立て上げることを必要とした。はじまりは根源的な恐怖心と心の弱さ、不安が原因だとする観点が非常に頷けました。
側から見れば、正直アメリカ的な差別構造は理解しがたいと感じています。病的です。しかし僕個人としては自国の文化とアイデンティティの欠落部分を無自覚に理解した時に、差別がはじまると以前から思っていて、そういう意味では決して日本には当てはまらない構造でもない気がする。
言葉にしづらいそんなモヤモヤを普遍的な差別構造の一つとして簡潔に伝えてくれてる点が非常に優れた部分だと感じました。

・メディアに置いて取り上げられる黒人の扱いの機微を捉えた彼らの視点からの解説。一見すると奴隷解放宣言以降、黒人の地位向上が進んでいるかのようなメディアの黒人マイホーム購入CMや、黒人が主役の映画にも、『白人が見て喜ぶ(安心する)黒人への願望』の表出があり実際には黒人の間では受け入れ難い作品だったというのは現実を見せられた気がしました。
『招かれざる客』『夜の大捜査線』のシドニーポワチエは最初期の黒人スターとして名前程度知ってたのですが、それ故に黒人にとって彼のこれらの作品は希望の星だったのかと思ってました。そのため『招かれざる客』に関して性差別的演出にボールドウィン含め黒人は大きな反感を持ってることは知らなかった。白人が身勝手にも『黒人という役割』を黒人に押し付けた。正にそうなのでしょう。
人種差別が性的な無能者のような性差別描写にもつながる一連の連鎖は、こと肉体的に劣等感を抱いてるアメリカ白人の潜在欲求を具現化したものだったのかな、とも考えてしまう。

また、『手錠のままの脱獄』の白人を見捨てられず黒人が列車から飛び降りるワンシーンを、当時黒人観客が見て嘆いたとの回想もまた興味深い。何が興味深いというとリベラル層の白人が同じシーンを見て『黒人に酷いことをしてきたが、恨まれてはいない』という願望と安心を得たという点。またそれが読み取れる事で黒人は不快になるということ。自分のこれまでの映画体験でもあるいは差別的な表現を見逃してる可能性があると心がざわついた。

ただ『夜の大捜査線』のラストに見られる白人保安官との人間的和解の象徴としての『キス』に近しい別れの描写。そこに見られる和解は今後の人種・性差対立の問題への糸口になるものだとも同時に語られてる。

・ボールドウィンの、イェール大学のリベラル教授との対談シーン。教授の発言も理解は出来るのが悩ましく、私は黒人でもリベラルな人間は近しく感じる、君は無理に差別に全ての問題を繋げようとしてるよ、と言うのですが…
白人は差別してる気はない、ただ無知なだけだ。とするボールドウィンの発言を裏付ける絶望的なすれ違いを見て取れる。

○bad
・キング牧師、マルコムx暗殺などいかに著名で熱意に満ちた人物が次々暗殺されていったかがダイジェスト的に紹介され全体像の把握にはとても有り難かった。
反面、キングとマルコムが終盤期思想的に近しいところにあった、という言葉の真意?2人の対極的な思想がどういうところで結びついたのかを語るシーンは待てど暮らせどなくて…
ややダイジェスト的な見せ方が多く、かつボールドウィンの主観からの展開なので仔細には少し欠ける印象。
もっと見たい、と思った。まぁ少し自分で調べます。

・散文的で時々本題がどこにあるのか見失う瞬間があった。

○感想
見れてよかったです。差別というのは僕にとって一つ大きなテーマなので、本作が描こうとしてるアメリカを通じての差別の歴史は普遍的なものだと感じました。
少子化は加速していてもはや歯止めが効かず、指導者の女性支援は常に正反対の要求を出し続ける矛盾。未だ島国的気質を脱してないまま海外から労働力となる若者が流入してくる。日本でもあと十数年すれば形を変えて同じような事は確実に起こると思うので、せめて自分の身構えはしっかり取れるように勉強していきたいです。
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