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散歩する侵略者のdaiyuukiのレビュー・感想・評価

散歩する侵略者(2017年製作の映画)
4.3
不仲だった夫・加瀬真治(松田龍平)が数日間の行方不明の後、まるで別人のように穏やかで優しくなって帰ってきたことに、妻・加瀬鳴海(長澤まさみ)は戸惑う。一方の真治は、何事もなかったかのように毎日散歩に出かけていく。同じころ、町では一家惨殺事件が発生し、奇妙なことが多発する。ジャーナリストの桜井(長谷川博己)は取材しながら、天野(高杉真宙)という謎の若者に出会う。二人は一家惨殺事件のカギを握る女子高生・立花あきら(恒松祐里)を探す。桜井はあきらを見つけ、そこで天野とあきらがある男と会話をするなかで起こった異変を目撃する。天野は、自分たちは侵略者で人間の概念を調査しており、自分たちがその概念を学習すると相手からそれが抜け落ちると言う。桜井は半信半疑ながら天野たちに興味を持ち、もう一人の仲間を探すという彼らに密着取材を申し入れる。一方、毎日ぶらぶらと散歩をするばかりの真治に、散歩中に何をしているのかと鳴海が問い詰めると、地球を侵略しに来たと答える。鳴海は戸惑いながらも、真治を再び愛し始めていた。町は急速に不穏な世界となり、事態は加速していく。さらなる混乱に巻き込まれていく桜井の選択とは? 鳴海と真治の行きつく先にあるものとは?
劇団「イキウメ」の同名人気舞台を映画化。
エイリアンが地球を侵略するSF映画というと、「インディペンデンス・デイ」のような人類と宇宙人の激しい戦闘シーンがあるものを思い浮かべるが、この映画は違う。この映画に登場する宇宙人は、人類からある概念を1つ1つ奪っていく。そのことによって、人類は宇宙人に服従し易くなっていく。
その人にとって大事な概念を奪われることで、宇宙人の言いなりにし易くなることは、ある人にとっては生きやすくなることでもある。松田龍平演じる真治を乗っ取った宇宙人に、満島真之介演じる引きこもりの青年が「所有」の概念を奪われることで、家に対する執着を捨て家から出ることが出来た。
人が大事だと思っている概念の中には、自我を無駄に縛りつけているものもあり、そのせいで自分の本心が見えなくなっているものもある。
自分にとって本当に大事なものは、何なのか?「仕事」「自分」「家族」「愛」の概念を、宇宙人が人間に問うシーンは恐ろしくもあり、その概念の意味を自分に問うシーンでもあり、自分の心と対話するような不思議なシーン。
人間社会に適応する中で、宇宙人の意識と真治の意識が一体になる中で、妻の鳴海に優しくなっていく変化は、人類は本当に「自分」「家族」「愛」という概念を分かっているのか考えさせられるユニークな心情の変化。
ただクライマックスに、人類と宇宙人の戦闘シーンが加わると、ありがちな既視感のある展開になっていくのが、残念。
ハリウッドではあまり見られない哲学的なSF映画として楽しめる。
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