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チップス先生さようならのSPNminacoのレビュー・感想・評価

チップス先生さようなら(1969年製作の映画)
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てっきり先生と生徒の話かと思ってたけど、堅物教師チップスと舞台女優のロマンスが前半、インターミッションを挟んだ後半は結婚後の教師生活晩年という構成。ミュージカル・シークエンスは短いが、ペトゥラ・クラークの歌はたっぷり、ポンペイ遺跡ロケや学生たちのアンサンブルを捉えたダイナミックな空撮が贅沢だった。
ショウビズ界と恋にドギマギする生真面目不器用なチップス先生が、今のドジっ子ギーク風で愛らしい。無礼や虚飾が嫌いなので、妻を嘲る上流階級に反発もするし、階級差恋愛を貫き、愛と誇りを身を以て示していく。
といっても、変革はあくまで個人的なもの。チップス先生を変えた妻はショウガールを辞め内助の功にシフトして、もちろん学内に革命を起こしたりはできない。やがて学内派閥よりもっと大きな政治権力、戦争によってかげかえのない存在を奪われたチップス先生は、年老いて思い出の中に生きるだけ。最後にわかるタイトルの意味は、喪失というもう一つの変化を受け入れた境地か。
チップス先生を通して、イノセントな若さや時代といった変わりゆくものと、信念や愛や学究心といった変わらぬものを重ね合わせた、ほろ苦くノスタルジックな物語は普遍的。愛嬌と枯れた味わいが同居したピーター・オトゥールも素敵だ。ただ、39年版はわからないけど、ロマンス・パートに長く割きすぎたような。伝統や上流階級の欺瞞は描かれるが、パブリックスクールをいささか美化したままなのはアメリカ映画ゆえかな。まあ、あの制服とストローハットに弱い人は多いよね。
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