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ヒトラー最後の代理人のesのネタバレレビュー・内容・結末

ヒトラー最後の代理人(2016年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

アウシュビッツ強制収容所のルドルフ・フランツ・フェルディナント・ヘス所長が処刑前に書いた手記を基にした作品。
地味ながらも丁寧に描かれた良作。ハンナ・アーレントがエルサレムの公開裁判の傍聴の後にアイヒマンを"小役人"のようだと表現したのを思い出した。

殆どが尋問官とヘスの対話で構成されている。尋問官はヘスと会話をする毎に、極悪人である筈のアウシュビッツ強制収容所の所長が自らと何ら変わりのない、やりたくない仕事を嫌々やらざるを得なかった役人であることに気付いていくという作り。彼の言葉からイメージを膨らませ、家族を避け、酒に逃げ、精力が漲るから発散し、表情を失っていく。尋問をしながら次第にヘスの心情を追体験していく尋問館の姿が挟まれる描写が良かった。
ヘスが軍人としての誇りや執着を持つが故に、"完全な無思想性"によって虐殺機械の一つの歯車になってしまったことが丁寧に描かれていた。

バーのシーンで流れる曲のチョイスも良い。月を連想させる二つの楽曲。
ドビュッシーの"月の光"はヴェルレーヌの詩から連想して作られた曲。雅な宴の裏に隠された虚構。表面性は読み取れても裏に隠された感情は読み取れないというもの。無感情で冷酷な仮面を被ったヘスを連想させる。
ベートヴェンの"月光"は耳の病気を抱えながら自ら死を意識する程思い悩みながらも誰にも告げられずにいた日々の中で作曲されたと言われている曲。どちらの曲もキャラクターの心情を的確に表現している。

原題は"The interrogation"で作中のやりとりをそのまま表現した「尋問」というタイトル。邦題は『ヒトラー最後の代理人』。ルドルフ・F・ヘスを指してヒトラーの忠実なる部下としての意味合いを込めたのかもしれないがあまり良いタイトルと思えない。そもそも"最後の〜"は正確ではない。ヒトラーとタイトルに付ければナチスの話だと分かりやすいし観客も一定数釣れるだろうという考えが透けて見えて腹が立つ邦題。そろそろ分かりやすさという大義名分で作られた観客と作品を馬鹿にした邦題は消え去って欲しい。
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