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軍旗はためく下にのKuutaのレビュー・感想・評価

軍旗はためく下に(1972年製作の映画)
4.0
戦争で有耶無耶になった過去を執念深く追う女を左幸子が演じている。私の好きな飢餓海峡と似た配役。「敵前逃亡の罪で死刑になった夫(丹波哲郎)」の最期を知るべく、当時の部下や上官を訪ね、死の理由に近づいていく。

カラーと白黒の使い分け、写真を差し込んだ緩急など、深作欣二の過剰に楽しい演出に引き込まれた。これだけ重いテーマを100分余りでまとめているのも凄いし、どこにも帰属できないと知った左幸子の孤独、こういう強い熱量を持った中年女性の邦画が今は少な過ぎるとも思った。

「戦死」ではないため遺族年金が受け取れず、「戦没者」にもならない夫。左幸子はインタビューを繰り返し、ある事実に肉薄する。原一男は「ゆきゆきて進軍」を作る際「『軍旗はためく下に』を超えなければならない」と意識していたそうだ。

「余った人生なんですよ」。生きるために何でもやった帰還兵には、終戦直後の闇市にしか居場所がなかった、という悲痛な言葉。彼らが負った枷、立場の弱い者に責任が集中させられたことに、左幸子は疑問を抱いていく。究極的にはそれは天皇の戦争責任論であり、上官の孫が手渡す「菊の花」を受け取ろうにも受け取れない、という終盤の展開に繋がっていく。誰のために死ぬのか、丹波哲郎が死の間際に言う「日本はどっちですか」が象徴的だ。

何ら変わらない日本の「組織」を抉る作風は、仁義なき戦いの原型とも言えるが、今作は軍隊を模したヤクザではなく、戦争を正面から扱っており、教師となった元上官の語り、学生運動や再軍備に関するセリフなど、左翼的な切り口に捻りがない点がやや物足りなかった。言いたいことがそのまんま出過ぎというか…。脚本が新藤兼人なのが大きいのだろう。81点。
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