Kuuta

関心領域のKuutaのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.5
ユニクロよりはパタゴニア、程度には世界への関心を持っていた若い頃の自分だったら、もっと刺さっていたと思う。結局ユニクロも着ているいまの私にとっては、そうは言ってもな…と難しい気持ちになる映画だった。言ってることは全部正しいし、期待した通りのものは見られるのでSNSとの相性は良さそう

・同じ世界に生きていても、その人が何を見ているのかはわからない。監視カメラには目線がない。妻は夫を、夫は妻を、2人は子供を見ていない。給仕をやらされているユダヤ人女性は、怯えながら自分の仕事に集中している。異動を巡りエキサイトする夫婦の会話すら、2人はカメラに背を向けたまま切り返される。

家の中のシーンだけを見れば意地悪なホームドラマだ。外にあるアウシュビッツが家族を崩壊させたのではなく、むしろ逆に、ひとびとが日常レベルの断絶から目を背け続けた結果が、あのラストに繋がっているようにも思えた。

・主観を通して心境を描く、「サウルの息子」の対極の作品を想定していたが、冒頭の暗闇+音の演出で、あれは目を閉じている主人公であり、観客の主観でもあるのだと感じた。基本は静かな会話劇なのでけっこう眠気に誘われるが、目を閉じた瞬間に関心がない側に落とされる、怖い作品。

一方で、引いた目線であることが、ナチスとわれわれの連続性を見えづらくしているのでは?とも感じる。監督得意の冷めた距離感が、描きたいものとどこまでマッチしているのかは疑問

・平面的な画面を横切る、列車の煙や川の流れは不可逆な時間か、生から死への移行か。ヴァンゼー会議の夜、平面を抜け出して2階の吹き抜けから壁の向こうを見下ろす主人公は、パーティーの狂乱にガス室を見る。続いて観客のいる暗闇=スクリーンを見つめることで未来を幻視し、嘔吐とともに自ら階段を降りていく。この畳み掛けはよかった。自分の非倫理性に体が悲鳴を上げる、アクト・オブ・キリングのラストのようだった。

・最初の感想に戻るが、世界にはいろんな犠牲があって、全てに自覚的でいることはできない。届くのは遠くで微かに鳴っている音だけ。それでもリンゴを渡した少女には、楽譜が返ってくる。ピアノを演奏するシーンは、ユダヤ人の文化や生活の空気がほんの少しだけ画面に現れる。救われた気持ちになると同時に、俺が救われてもしょうがないんだけどな…と堂々巡りな気分になる(結局リンゴは悲劇を招く)。この題材である以上、逡巡し続けることしかできないのだが
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