軍旗はためく下にの作品情報・感想・評価

「軍旗はためく下に」に投稿された感想・評価

このレビューはネタバレを含みます

戦場での記憶はモノクロで語られるが、決定的な場面には色がつく。人肉の旨そうなピンクや吹き出す血液がなかなかどうして鮮やかで。また上官殺しを決意した丹波哲郎や人肉を食ってしまった三谷昇の視線が観客へ向けられるおぞましさ。お前らだって無関係ではないんだぞ、と言いたげだ。
しの

しのの感想・評価

4.5
新文芸坐の戦争映画特集にて。

かっこ良すぎる。
戦後四半世紀。理由の分からない軍規違反で処刑されたために戦没者年金の対象とならない富樫軍曹の妻サキエ。詳細を求めて4人の元兵士へ話を聞きに行くが。

当初は羅生門のように証言の内容が全く異なり、無謀な上官へ従わず味方を救った英雄なのか、殺された芋泥棒なのか、戦友を食ったのか、狂った上官を殺したのかと様々なストーリーが語られるがどれも筆舌に尽し難く戦場で人間性が破壊される様を描き、生きた語り手も心は既に戦場で死に残り滓のようになっている。

そんな中で唯一悪びれもしないのが戦犯としての追求を免れ悠々自適に老後を暮らす千田少佐。戦争についても国がやったことだから仕方がないと個人の責任から目を反らす。戦中に名誉と誇りを題目に唱え死を命じた立場でありながら。しかしこんなのは氷山の一角に過ぎない。末端の不名誉な死は無視される一方でA級戦犯が総理大臣になる不条理が説かれる。現在そのA級戦犯の孫が総理として戦前回帰歴史修正に躍起になっている。

軍人勅諭の場面から始まる本作は神輿として担がれて戦後のうのうと存在し続ける天皇も糾弾する。「天皇陛下に夫を追悼されるわけにはいかない」とは踏みつけられ無視される下々のせめてもの反骨か。今は天皇に対しては賞賛以外はパロディでも許さない不敬罪めいた空気があり表現の劣化を感じる。

世捨て人になっていた事実の核心を握る寺島上等兵がゴミ溜めのような朝鮮人部落に住んでいたこと。それも開発によって潰されつつあり、人々は戦争を忘却の彼方に追いやっていること。そうした過去を蔑ろにして時計を進めることに対する戦中派の切実な危機感が作品を貫いている。そして本作から45年を経た今、それは現在進行形で勢いを増し続いていることを痛感せざるを得ない。
だびー

だびーの感想・評価

4.1
戦争それ自体がもたらす悲惨さは勿論のこと、同時に生き残った人々の心にどれだけの傷を残すのかということ。高度経済成長の中で戦争の記憶を忘れる、もしくは知らない人々と、いつまでもその記憶に囚われ続ける人々。三谷昇が演じる寺島が住んでいるスラムのような場所が終盤になって「朝鮮人部落」だと言われ、ハッとなる。
新文芸坐『映画を通して反戦と平和を希求する映画祭』の一本として。
 
完全な第2次大戦モノではあるけど直接の時代設定は戦時中ではなく、終戦後26年を経た1972年に、ニューギニア戦線で脱走兵として処刑された日本兵の寡婦が夫の死の真相を求めて生き残りの軍人を訪ねて回る話。段々と明かされる戦場の実情の描写は、最近で言えば塚本晋也監督がリメイクした「野火」に近いものだけど、当時の絵と画質と俳優の演技により一段と凄味の増したものになっている。
 
実際この作品のポイントは、戦争時から今ほど時間が経っておらず、制作者・演技者が同時代を体験出来ていたことだと思う。その時点での彼らにとって、このシナリオ、演出にリアリティがあり、映画として表現できた。自分はこの映画よりも後に生まれているけど、子供の頃にはまだ周りに戦時を体験をした人が居たし、話を聞くこともできた。だから映画としても時代性も含めて受け取ることができる。

ただ、作品内であからさまに提示される反戦の主張や日本軍の描写、それに伴う戦後的な政治的スタンスが現代とは大きく異なっているので、同じものを撮ることはできないし、今後表だってソフト化されたり、若い世代に受け入れられることはないと思う。
 
そのことが(作品の中でも既に示唆されている通り)、いかなる経験であれ世代の制約を超えて伝え続けることができない、という残酷な事実を表しているのかな。
Kunihiro

Kunihiroの感想・評価

4.0
色んな人の顔色を気にする現在ではつくることの出来ない映画。十分反戦が伝わりました。
tjr

tjrの感想・評価

4.3
左幸子の演技に思わず笑ってしまうがこれまたすごい。今こそ観るべきとか言わないけど。
4人の証言から夫の死の真相に迫るのだが、戦中の描写はもとより現在の彼らの生活にも闇を落としているのを過剰に演出していて面白い。三谷昇の肥溜めのような住処には目を疑う。
極限状況に立ち会った時人は信頼できない語り手になる。左幸子がたどりついた結論も真偽は定かでない。「本当のことは誰も分かりゃしない」。
マツダ

マツダの感想・評価

5.0
『野火』と同等かそれ以上
みんな観るべきなやつ
日本戦争映画の最高傑作だと思う。この映画見てしまうと他の戦争映画では物足りなくなってしまう。
戦没者慰霊に入れてもらえない死亡扱いの為、遺族年金がもらえない奥さんの話から、まさか最後に天皇陛下糞食らえって訴えてくるなんて予想してなかった。
「野火」や「ゆきゆきて神軍」をこえる凄まじさ。
上官殺し、捕虜処刑、敵前逃亡、仲間の裏切り、人肉料理大会。終戦告げられても総攻撃しろ!などハンニバルレクターの狂気がチンカスに思えるほど狂ってる。
もう人間の醜悪さをカレーハンバーグうどんそばをてんこ盛りにしたような量で詰め込んでる。72年当時の学生運動も背景にちらちら映すあたりも秀逸。丹波哲郎の目で訴える神演技。血生臭いシーンだけモノクロからカラーに変えるとか、本当にえげつない。
羅生門形式で描いていくからただただ圧巻。戦争責任を逃れた上官ほど戦後ぬくぬくと暮らしている不条理さ。救いがなさすぎて頭がおかしくなりそう。
日本兵にも敵前逃亡したり、不条理すぎる上官にキレて殺す人ぐらいいると思っていたんだけど、なかなかそれを描いた映画がなかったので不思議に思っていたら、ちゃんとこの映画にありました。
超すご!深作欣二の大傑作。戦争で夫を亡くした主人公サキエ(左幸子)が、夫の戦死の真実を追求するため、当時の戦線にいた生き残りを訪ね歩く。政府や家族からも戦後20年以上経つし、もういいんじゃないと言われながらも執念で真相に辿り着き、、、、、という話

ディストーションギターでノイズと化した君が代が不気味に鳴り響く。サキエの執念が「ゆきゆきて神軍」の奥崎氏と重なるものがあるなあ、、、強烈な映画だった