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許された子どもたちの消費者のレビュー・感想・評価

許された子どもたち(2019年製作の映画)
3.9
・ジャンル
社会派/ドラマ/バイオレンス

・あらすじ
悲劇は神奈川県のとある町にある河川敷で起きた
かつて自身もイジメの被害を受けていた13歳の少年、絆星(きら)は不良仲間と共に樹という同級生をいじめていた
そして樹自らに作らせた割り箸製のボウガンで彼の首を打ち抜き逃走
放置された樹は死亡してしまう
事件はすぐに明るみに出て刑事の詰問を受けて一度は自供した絆星
しかし息子の無実を信じ切る母と弁護士に勧められる形で主張を翻してしまう
物的証拠が隠滅されていた事から絆星達は不処分に
不当な判決に我が子を殺された樹の両親が黙っているはずもなく彼らは民事訴訟の意思を会見で発表
だが絆星の母、真理の意思は固く息子を守ろうと行動を開始する
そんな努力も虚しく一家は近隣住民からの排斥やネット上での住所公開や誹謗中傷など激しい被害を受け続けていく
耐えかねた彼らは名を変えて別の町へと移り住み身を潜める様になるのだが…

・感想
中学生男児による同級生の殺人事件というセンセーショナルな題材を扱った社会派作品
以前から気になっていてHuluに来ていたので鑑賞

製作されたのが比較的最近という事もあり不良グループのLINEやネット掲示板での炎上、絆星の罪を追求する配信者、リアルでの凸など現代らしさが詰め込まれており、端々に挟まれる心理の比喩などもかなり作り込まれていてそういう点では生々しくて良かった
殺害の描写も刺された喉笛から鳴る音まで細かく演出されていて悪くない
また絆星だけを悪として描くのではなくネット上や転校先で繰り広げられる歪んだ正義(在日認定など)も現実をしっかり反映していて評価出来る点

ただずっと引っ掛かり続けた部分としてあまりにも監督の願望を載せ過ぎた展開や事件後に絆星が殺害に関しては単独犯であったにも関わらず仲間達が巻き込まれたと責める事が無かったりという点がある
特に前者は顕著で本作では事件から1年超の期間が描かれているが一時も社会からの非難が止まなかったというのがリアリティに欠けていた様に思う
現実社会では凄惨な事件というのは日々無数に起こり続けており、基本的にその大半は時間と共に風化してしまう(実際、札幌や川崎の事件がそうだった)
その残酷さまで描いて欲しかったなぁというのが個人的に感じた事

そして転校後の展開
教師による性加害の被害者でありながらそれを信じてもらえずイジメの標的とされる桃子から全てを知った上でも支えられ続けて事で絆星と彼女は惹かれあっていく
これがどの様な結末をもたらすのか?と考えると桃子も絆星の不良性に呑まれてイジメ加害者や恐らく見て見ぬ振りの両親等をボウガンで手にかけるのか?というのが頭に浮かぶ
しかし実際はそうはならず、予想を裏切った割にフワッとしたオチで終わってしまうのが何とも言えない
ラストにしても加害者は罪を逃れられれば何食わぬ顔で生活していく、と示したかったんだろうけどそれにしては胸糞度が弱い
絆星たち市川家の中で起きる事にしても大分マイルドで父のスタンスを踏まえればもっと最悪な事になるんじゃないか?という気がした
あれだけ追い詰められながらも普通に生活費が捻出出来ていた点にも違和感が残る
それこそ生活保護受給とかしていたらもう1つ盛り上がりが作れたのでは?
パートや原稿料があっても家賃、学費、生活費もろもろを考えると足りるとは思えないし…

絆星が罪悪感に苛まれる様になり徐々に壊れていく描写にしても結局は身勝手な所に落ち着く、というのは良かったもののこちらも結末はあっさりとした物
「告白」の様に過激な描写が必要とは言わないまでも精神疾患に陥るくらいの事はあっても良かった気がした(実際、かの有名な女子高生コンクリート詰め事件の加害者の1人とされる人物はXでの投稿から統合失調の疑いが濃厚になっていたりするので)

題材や問題提起には意義があるのは間違いないし様々な要素を総ざらいしている点が優秀なだけに結局何が伝えたかったのか?という部分が曖昧に終わってしまっていたのもモヤモヤ
簡単に結論が出せる事ではないにしてもどうせならよりリアルを追求してくれていれば良かったかな…
映像技法や演出、役者陣の芝居などは素晴らしかったんだけど…
良作ではあるけど勿体無く感じる部分が多かったというのが総合的な感想
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