MasaichiYaguchi

ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれたのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.6
テロを題材とした作品というと、対テロ戦やテロ犯への報復を主としたものが多いが、2013年のボストンマラソン爆弾テロ事件で重傷を負った一人の男の実話を映画化した本作からは、復讐からは憎しみしか生まれないが、救いからは希望が生まれることを感じさせてくれる。
ボストンマラソンに参加した好きな彼女の応援に行って、テロに巻き込まれた実在の人物ジェフ・ボーマンの再起のドラマが、恋人や家族を中心とした人々との触れ合いの中で繰り広げられていくのだが、副題にあるように、どちらかと言うとダメンズである彼の葛藤あり、弱音あり、捨て鉢ありのヘタレのドラマが展開され、立志伝的内容を期待すると肩透かしを食らう。
しかし考えてみれば、生まれつきの英雄などいる筈もなく、更に一人では何者にもなれはしない。
ヘタレである主人公は、凄惨なテロ事件で身体障害者になったとはいえ奇跡的に助かったことで、周囲をはじめ社会から勝手に「英雄」に祭り上げられ、「英雄」としての「行い」を期待されることが重荷になっていく。
そんな主人公が、恋人や家族の愛あるアシストで少しずつ変わっていくのだが、茨の道は険しくてなかなか思うように進まない。
しかしテロ事件絡みだった為に接触しなかった人物との再会で、彼が変わっていく。
この映画は目覚めの、若しくは気付きの作品だと思う。
ヘタレの状況から目覚める主人公を「カメレオン俳優」であるジェイク・ギレンホールがエモーショナルに、繊細に演じている。
主人公が、はじめから「英雄」ではなく凡人だったからこそ、同様な我々は描かれた人間ドラマに共感し、勇気と希望を感じてしまう。