菩薩

ワイルドライフの菩薩のレビュー・感想・評価

ワイルドライフ(2018年製作の映画)
4.2
『彼女の笑窪に引っ越したい』3rdシーズンの幕開け、しかしそんな笑窪は徐々に姿を見せなくなり、俺も度重なる引っ越しを余儀なくされる羽目に…。

アメリカ版『メモリーズ・オブ・サマー』と言ってしまえば簡単だろうが、こちらは初雪の到来を待ち侘びる映画、地獄の業火が消し去られれば、僕の苦しみの日々も終わるだろう、だがそんな希望は脆くも崩れ去り、少年は更なる醜い炎を目の当たりにする事となる。自分のプライドを守りたい父親、自分の生活を守りたい母親、3人で暮らす幸福な家庭を守りたい息子、三者三様に守りたい「家族」への想いは交錯し、拗れ、遂には壊れていく。父は子に自らの姿を重ね、子は父に英雄への憧れを重ねる、だが父より大きく強いアメリカの象徴は、父がいぬ間に母の身体を奪い去る。目の前で父とは違う男に抱かれる母、成すすべ無く項垂れる息子、助けてくれと願っても、父への想いは届かない。自らは手の届かない幸福な家庭、目の前で繰り広げられるそんな光景を、来る日も来る日も切り取っていく息子。写真とは幸福な瞬間を永遠へと変える装置であるとの呪縛、それはやがて希望へと変わり、赦しの先に想いは実る。男は常に闘い続けなければならない、それは女とて同じ事だろう、人は常に闘い続けなければならない、人生とは闘いの連続であり、家庭とはその勝利の結果であろう。母は目に涙を浮かべ、父は目をしかと見開き、子は目に穏やかな色を浮かべながら、3人は共に1つの円を見つめる。この先この家族がどうなるかは分からない、だがこの時刻まれた「幸福な家庭」の姿は永遠性を有し、彼等の生存競争はこの先も続いていく。きっとそれぞれの「守りたい」を守りながら、待ちたい人を待ちながら。
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