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羅生門のmatchypotterのレビュー・感想・評価

羅生門(1950年製作の映画)
4.0
ついに観た、『羅生門』。
黒澤映画が飛躍するに至った代物と言って良い。

話の構成と役者の魂籠る演技に圧倒される。

羅生門、朽ちかけた寺の門に雨宿りに寄った下人。
そこにはすでに先客で杣売りと僧侶。
どこか物憂げなその先客に話しかけた下人。その2人から何とも奇妙な話を聞かされる。

話の出来事は至ってシンプル。
山道を行く侍夫婦。そこに現れる侍1人、三船敏郎。
三船敏郎がその道ゆく夫婦の夫を縛り、妻を手籠にする、そして、縛った夫をそのまま殺した、という話。

夫を殺した侍。
手籠にされて夫を殺された妻。
死んだ後に巫女によって降霊させられて語り始める夫。
その死んだ侍の亡骸を見つけた杣売り。

奉行所に集められてそれぞれが聴取されるが、それぞれが食い違う証言を始める。
それは、見栄が織りなす人間の醜い業が錯綜する恐ろしい話と化す。

それぞれが1つの事実をそれぞれの違った過程で話す。事実は変わらない。
夫を拘束し、妻を手籠にし、夫は殺される。

殺した侍は、妻を思い通りにし、夫を潔く殺したと言う。
妻は手籠にされた後に侍は逃げたが、後ろめたさと夫の冷たい視線に耐えきれず気絶し、起きたら夫が死んでたと言う。
殺された夫は、侍が妻を生かすか殺すかはお前が決めろと言われそのスキに妻は逃げ、侍も消え、自分は自害したと言う。

1番客観的な視点で一部始終を見ていた杣売りの証言も。

1つの出来事が、様々に塗れ、しがらんだ人物から語られる。
何が正しいのか、何も正しくないのか。
そもそもこれは何を聞かされてるのか。

罪を認めるにも、侍や女、死人の見栄とプライドがあり、皆がうらやむようなシナリオを経てここまで来たことにし、本懐を遂げたいと言う思いから真相は藪の中へ、、、。

そんな話を聞かされた後に杣売りと僧侶が辿り着く羅生門。
話を聞かせた下人が、羅生門の裏手で泣いてる赤子に気付いて取る行動。

人は、見栄と去勢から成り立ちながら、見栄と去勢が不要な環境ならばとことん自分本位にもなる生き物。

人間の欲深さ、本音と建前。
人はこうありたいという願望と、結局大事なのは自分だろうという殺伐とした現実。

決して豊かではない時代背景の中で、平凡に生きる人々が出くわす非日常の出来事が暴き出す人の性。

恐るべし、黒澤映画。恐るべき、黒澤組キャスト。
どんなに技術が進もうとここまで抉れるものではない。
役者の剥き出しの仕草や表情。何もかもが真に迫る、これぞ迫力。


F:1929
M:21373
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