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リクシャーのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

リクシャー(2016年製作の映画)
4.3
【踊らぬインド映画!リクシャーの中で繰り広げられる罪と罰】
Netflixで配信されていたインド映画『リクシャー』を観た。リクシャーと言えば、インドで普及しているタクシー。その放題に導かれるようにして観たのだが、これが大傑作だった。

☆『リクシャー』あらすじ
リクシャー運転手の男は、映画監督を目指している。友達と一緒に、リクシャーの生活を撮ったドキュメンタリーを撮ることになるが、段々と男の狂気が滲み出て...

☆リクシャー車内で広がる罪と罰
イランの映画監督アッバス・キアロスタミが『10話』で確立した車の中だけで展開させる映画手法。この手法は、世界中のシネフィルを驚かせたが、中々踏襲されることはない。私もこの作風の映画は『人生タクシー』を観た程度だ。今回、事前知識を入れずに観たこの『リクシャー』がなんとこの手法を踏襲していて驚かされた。

意識高すぎ高杉君ことインドのリクシャー運転手が映画監督を夢見て、友人に映画を撮らせる。その映画はドキュメンタリーであり、リクシャー運転手の生き様を淡々と追うという内容。いきなりヤクザな運転手に殴られたり、金を払わず逃走する奴がいたりと散々な目に逢うリクシャー運転手が映される。家では、家族に「映画監督なんか目指さずキチンと働きなさいよ!」と言われる始末。彼の唯一の憩いの場所は、夜の廃墟だ。

観客は、報われないリクシャー運転手に同情する。そして、意識高すぎてイタイ彼に呆れてくる。

これが、段々とドストエフスキーの『罪と罰』を下敷きにしたのではと思う程の驚きと狂気の物語へ変貌を遂げる。社会にフラストレーションを溜め込むリクシャー運転手は、カフェで店主と喧嘩をしたり、タクシーの乗客と揉め始める。段々と暴力的になっていくリクシャー運転手。観客が、「あっこいつサイコパスだ!」と思った時にはもう遅い。観客は撮影スタッフと同じ位置で、リクシャー運転手の暴走を指くわえて観届けるしかないのだ。

これは驚かされた。ただの低予算モキュメンタリーに見せかけて、非常に文学的奥行きを持った傑作であった。これがモキュメンタリーだと知らされてなかったらドキュメンタリーとしか思えない映像にも背筋が凍る。なので、しっかりモキュメンタリーとしても成功している。

Netflixにアップされているので、インド映画に興味がある人、特に踊らないインド映画を観たい人は是非挑戦してみてください。
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