Sari

逃げ去る恋のSariのネタバレレビュー・内容・結末

逃げ去る恋(1978年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

トリュフォーの自伝的な作品群「アントワーヌ・ドワネル」ものの最終作。

ドワネルものの4作品(『アントワーヌとコレット』も入れると5作品)のみならず、『アメリカの夜』、『恋のエチュード』の引用から成る作品。現在のシーンと回想シーンとをパッチワークのようにつなぎ合わせた実験的な作りで、18分もの引用が入る。
ドワネルものの集大成であり、映画史上滅多にない企画ものの映画である。

印刷工として働きながら、自分の恋愛体験を小説にまとめ出版したアントワーヌは、長らく別居を続けてきたクリスティーヌといよいよ協議離婚した。妻が引き取る息子アルフォンスを音楽学院の合宿にやるため、駅まで見送りにきた彼は、反対ホームの列車に昔の恋人コレットを見かけ、思わず飛び乗って、彼女と昔話に花を咲かせ、現在の互いの身の上を語り合う。彼にはレコード店に勤める恋人サビーヌがいたが、妻子のことがネックになって、うまくいっていない...。


『アントワーヌとコレット』のコレット役のマリー=フランス・ピジェが、本作では弁護士の役で登場すると同時に、回想シーンでは『アントワーヌとコレット』の16年前の挿話が想起される。マリー=フランスとレオーが寝台列車で邂逅し、食堂車で語り合い、寝台車で喧嘩をするシーンはそれだけでワクワクする。コレットは一度目の結婚で娘を授かったが事故で亡くし離婚、現在は弁護士として子供の殺傷事件を担当していることを打ち明ける。彼女は今、書店主のグザビエに片想いしているが、あっさりそれが成就するのが小気味がいい。
マリー=フランスの外見については、細眉に変化し髪も長くなり印象が随分変化している。

クリスティーヌはコレットと、元夫アントワーヌ・ドワネルの悪口を言い合うが、アントワーヌを憎むことが出来ない二人。

クロード・ジャドは初めて見た時から思っているがブロンドの豊かで美しい髪、かぎ型の眉、ぱっちりとした瞳、細い唇はカトリーヌ・ドヌーヴを想起させる。
(暗くなるまでこの恋を』の撮影時、トリュフォーとドヌーヴは同棲していた。)

本作でデビーとなるドロテ。これまでの大人の女性たちとは全く違い、ややロリータ的な印象を与える。冒頭ではピンクのスヌーピーのTシャツを着ているくらい。ドロテもまたフランソワーズ・ドルレアックを想起させる。
女性はその他、ダニや母親、男性では既に亡くなったアントワーヌの母親の愛人が登場する。
女性たちからアントワーヌ・ドワネル=トリュフォーの人生を振り返った映画となっている。

音楽はジョルジュ・ドルリュー手がけており、オープニングとラストでかかるアラン・スーションが歌うシャンソンがアンニュイでとても良い(曲調がややゲンズブールを想起する)。歌詞に登場人物の名が入るので、この映画のために書き下ろされたと思われる。
撮影監督は、エリック・ロメールの作品で知られるネストール・アルメンドロス。

2022/11/18 DVD
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