きゅうげん

サスペリアのきゅうげんのレビュー・感想・評価

サスペリア(2018年製作の映画)
4.0
アルジェントの『サスペリア』は、古典的なオカルトを衝撃的な美しさとグロテスクさで彩った、唯一無二の大傑作です。
そんなホラー界の逸品を、あのルカ・グァダニーノ監督がリメイク!?

テーマとしては、政治闘争としてのテロ行為と身体表現としてのモダンダンス、ドイツ的トラウマと闖入者としてのアメリカ、ヨーロッパの民俗的な魔女観とアメリカの篤信的なキリスト教観……など、シビアでリアルな社会性を二元的に盛り込み、オリジナルに比べて重たく暗い印象です。
またストーリーも、内部の新参者であるダンサーと、外部の年長者であるドクターに二軸化されており、作品全体においてパラレルな構造が際立つ作りになっています。


“ダンス=儀式”という要素はオリジナル以上に前景化されており、『民族』も『再生』も宗教的トランス感がナイス。踊りによる超常的な力で殺されるシーンはエグすぎます。
刑事にイタズラしたりレストランでふざけたりする先生たちの、下卑た魔女っぽさも絶妙。
……ただノリ切れないのは、蓋を開ければ組織の内紛モノだというオチ。投票によるリーダーの選出も派閥抗争を経た報復人事も、魔女たちにやってて欲しくはないなぁ。
それに伴う真相をめぐるサスペンスも、パトリシアやオルガによる早々の暴露や、サラによるトントン拍子の調査など、スリラーとして起伏が低め。

それに急なズームやパン、スローモーションの多様という撮影的な試みとか、蛆虫や血文字などの悪夢的なビジョンとか、プリズムみたいな“何か”とか、随所で垣間見える演出がどうしてもクサい。
映画的表現の手数の多さがグァダニーノ監督の魅力でもあるのですが……。
トム・ヨークもクロエ・グレース・モレッツも、勿体なさが勝っちゃう感じ。

ただダコタ・ジョンソンとティルダ・スウィントンは、唸らざるを得ないほど美しいです。
ダンスシーンは勿論ですが、食事をしたり煙草を飲んだり、とにかく絵になり過ぎる!
オリジナルとは別の方向性で頑張っている、これはこれで面白味のあるリメイクではないでしょうか。