Martha

劇場版 嘆きの王冠~ホロウ・クラウン~/ヘンリー四世 PART1のMarthaのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

観たのはそれぞれの円盤だったが、まとめて書けそうだったので此処で。
シェイクスピアの原作に忠実な作品。日本で言うところの大河ドラマに位置付けられるかもしれない。見たのがかなり前なので区切りは目安でお願いします。

第一部
トムヒ演じるハル王子が眼福。あの感じは信長公を思い出すような。道化を演じている様子に何処となく親近感を覚える。初陣を飾るが父王が危篤となって王冠を被ったとき、そしてそれを浅慮だと責められたとき、道化の仮面を剥いで本来の賢さの片鱗を見せる。最後の戴冠式のシーンでは、王太子時代からは変わったことを見せつける為に親しかった小悪党達を一刀両断する。能ある鷹は爪を隠すのだろう。

第二部 (ヘンリー5世)
王となったハル王子が正式にヘンリー5世に。あのトムヒの画像で見た頬の傷は史実にあるもので閉口した、細部まで拘られている。恐らくこれに関しては多少歴史の知識があるとより楽しめる筈。第一部とは全く変わって、王らしく成長し強気の政策展開をしていく。彼がもし赤痢で亡くなっていなければ、世界史が大きく変わっていたかもしれない。

第三部 (ヘンリー6世)
ヘンリー5世が亡くなったのはヘンリー6世が幼い頃。彼は父親の背中を見ずに育った。だからこそ王冠の重責は彼の大きな負担になったことだろう。その最中で起こる薔薇戦争は大きく大局を動かしていくことになる。前2作品より圧倒的に血生臭い展開があるので鑑賞の際は少し注意した方が良いかもしれない。

第四部 (リチャード三世)
ヘンリー6世が追い出され、プランタジネット朝が開かれた。4兄弟のうち薔薇戦争で生き残ったのは3人。先に兄二人が王の座に即位することになる。リチャード三世は本来、王位継承権がかなり低かった。彼が王たらしめたのは実力行使とその賢さに他ならないように見える。貴族を買収したりするのは嫌われがちだが実際の統治では綺麗事など言っていられまい。残忍ではあるが正直、この王のやり方は好きである。そして有名な「馬をくれたら王国をくれてやる」の言葉はやはり妙な感動と切なさを覚えさせるものだった。英国で戦死した王は長い歴史の中でも二人だけ。戯曲の中では描かれなかったが、彼の遺体は全裸で城門に晒されたらしい。戯曲故の脚色か、はたまた真実だったのかは不明だが史実では理リチャード三世にも民心は集ってランカスター朝が開かれた後も擁護する民はそれなりにいた模様。(長年王として葬られることなく捨てられた遺体は後に遺骨となって駐車場の下から発見され、数年前に改めて葬られたのは事実である。)

史実は謂わば勝者の歴史であり、視点が変われば見方も変わる。それを思い知らせてくるような作品だった。
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