dm10forever

イット・カムズ・アット・ナイトのdm10foreverのレビュー・感想・評価

3.8
【見えざる何か】

プロットだけ見ると昨年観た「クワイエットプレイス」にも似てるのかな?と思いながら鑑賞。
まぁ、危険から逃れるためにシェルターの如く先の見えない立て籠もり生活を送るという点では通じる部分もあるけど、根本的なアプローチは全く違います(当たり前か)。

―――世界は正体不明のウイルスに支配され、もはや人類がどうなったのかすらわからない。信頼できる隣人などもいない山奥にひっそりと立て籠もるポール(父)、サラ(母)、トラヴィス(息子)、そして愛犬のスタンリー。
祖父も一緒に暮らしていたが早々にウイルスに感染してしまい「隔離処分」されてしまう。
彼らは森の中の一軒家でひっそりと暮らしていたが、既に電機も止まっているせいか明かりは勿論、ラジオやテレビなどから情報を得るという手段もなかった。
彼らの家のルールでは外への出入りが出来る場所はただ一つ「赤いドア」だけだった。

ある夜、不意に赤いドアの向こうから物音がすることに気が付いたポールは家族に危険を知らせガスマスクと武器の用意をさせる。そして意を決してドアを開けて何とか侵入者を捕らえる。男の名はウィル。80㎞先の小屋に妻と子供を残しており、自分は物資を探すためにここまで来たというがポールは半信半疑。しかし、妻のサラは「だったらその家族もここに呼べばいい。協力しあうべき」とポールに提案する。かくしてウィルを信じてよいのかわからないままポールは彼の家族を迎えに行くこととなった・・・。

この世界に蔓延る「ウイルス」は「目に見えない恐怖」のメタファー。知らず知らずのうちに憑りつかれてしまうという点ではオカルト的なものとも通ずる部分ではある。それをあえてリアルなウイルスに置き換えたのだ。
つまりこれはあくまでも「霊現象などの超常現象についてのホラーではない」という事である。

この映画における恐怖のポイントは「人間の心理的な許容範囲の向こう側」。
その境界線として使われていたのがあの「赤いドア」である。
そもそもウイルスはドアにカギを掛けたくらいで防げる類のものではない。それこそ「目に見えない存在」なのだ。ある時は窓の隙間から、ある時は水に混じって、ある時は人や動物に付着して、つまり物理的に100%ブロックするという事は不可能なのだ。そういう理解であのドアを見た時、やはり「物理的な進入(攻撃)」に対する防御であると考えるのが自然。つまり人間の生き残りが物資を奪いに来ることが何よりも危険であると認識している、せざるを得ない世界なのだ。

そのような世界でウィル一家を迎え入れるリスクは、実は家の中に入れた後も消えることはなかった。ポールの家に居候させてもらう身であるウィル一家は従順にポール家のルールを受け入れる。ウィルの妻キムはサラやトラヴィスともうまくやっているし、息子のアンドリューは無邪気で可愛い幼い男の子。ウィルも積極的に家の仕事を手伝い文句のつけようがない。でも・・・・なぜか拭いきれない不信感。そしてそれはポールだけではなく観ている側も同じ気持ちになるのだ。
(なんか物分りよすぎね~か?)みたいな。
それでも共同生活が続くにつれ、少しづつ打ち解けたポールとウィルは亡くなった祖父の部屋に隠していたお酒を飲みながらお互いの過去の話をする。しかし、ちょっとしたことからウィルの話の矛盾に気が付いてしまう。やっぱり気が置けない・・・。

ある日、悪夢にうなされて眠れないトラヴィスは、寝ぼけて祖父の部屋で横になっていたアンドリューを見つけウィルたちの部屋まで手をつないで送り届ける。
その帰り妙な胸騒ぎを感じたトラヴィスは赤いドアの鍵が開いていることに気が付く・・・。

~誰が開けたんだ?~

お互い疑心暗鬼になる両家族。鍵が開いていたという事は外に出ていた可能性もある。つまりウイルスに感染している可能性もあるという事を意味していた。

「今は言い争っても仕方ない。お互いの家族の安全の為にもしばらくの間接触するのを止めよう。当面の食料を持ってしばらく部屋にいてくれ」
ポールはウィル一家に告げる。

「その方がよさそうだな」
ウィルも同意し部屋に引き上げる。

ポールは改めてトラヴィスにドアを開けていないか問うが彼は絶対にやっていないという。ということは、やはり・・・。


改めて思う。人間が極限状態に置かれたとき、そして冷静さを失った時、これから自分が下す判断がどのような結果をもたらすのか、わかっていても止まらなくなる。最悪の事態を迎えるとわかっていてもだ。
動物は自分の身を守る際、決して過剰な攻撃はしない。それは踏み込みすぎれば自分の身も危ないという事を本能的に悟っているから。しかし人間は違う。基本的に弱い動物である人間は行動の前に頭で考え過ぎた結果、必要以上のアドレナリンが放出されて過剰なまでに恐ろしい行動に出ることがある。常に刹那の中で生きていない分、止めどころを知らないのだ。だから「結局一番恐ろしいのは人間だ」という結論に辿り着く。

ウイルスを恐れるあまりに・・・というのはあくまでもきっかけに過ぎない。お互いがお互いを疑い始めた時、それはちょっとしたきっかけでいつでも暴発する状態なのだ。
結局、最期まで晴れなかった猜疑心が両家族に最悪の結末をもたらす・・・・。





イット・カムズ・アット・ナイト





ん?これで終わりじゃないのか?
言われてみればこれだけじゃタイトルの意味がわからない・・・。

トラヴィスが毎夜のように見続けた予知夢のような悪夢。
何故か森に向かって吠え続けたスタンリー。
そもそも瀕死のスタンリーをあの家に届けたのは誰?

確かにポールがあのドアのルールをウィル一家に説明した時「夜は緊急時以外は外には出ない」と念を押していた。
あのドアにまつわるトラブルは決まって夜に起きていた・・・

イット・カムズ・アット・ナイト

一体何が来るんだ・・・?
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