O次郎

きみの鳥はうたえるのO次郎のネタバレレビュー・内容・結末

きみの鳥はうたえる(2018年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

真っ直ぐに真っ直ぐに生きる若き男女三人のグラフィティ。
暴力にしろ色にしろ、刺激のある描写がほぼ皆無で淡白さを徹底して撮られているので、その点でまず観る人を選ぶ。
まぁ、予告編や宣材写真でそのへんは予め判るところではあるが。

で、本編。
まずオヤッと思ったのが、エンドクレジットでようやく舞台が函館であることに気づいたこと。
作品内の季節が夏であることもあるが、主人公の仕事場にしろ自宅アパートにしろ呑み屋にしろ、唯一性に乏しく、国内何処にでも有り触れた人物場所設定として親近感を覚えさせるのに機能している。

そして演出が巧みなのが、人物の見せ方。
柄本佑さん演じる主人公はフリーターだが、仕事ぶりは適当そのもので無断欠勤や嘘もなんのその、他人との約束もすぐに忘れるか流してしまう。
しかし、同僚の若い女性は、呑みの約束をすっぽかされたにもかかわらず彼を気に入り、情抜きで関係を持つ。
一見、軽薄な人たちに見える。

がしかし、この作品内では真逆で、一見「誠実」な人たちこそ実に醜く描かれている。
端的な例が萩原聖人さん演じる職場の本屋の店長で、仕事ぶりは真面目ながらその実、妻子ある身で前出の若いバイトの娘に手を出しており、それでいて仕事場への忠誠を胸に万引きへの怒りを露わにして「誠意」を主人公に力説する。
中年の同僚男性も同様に、職場の他の人間たちについて陰口を叩きながら当人の前では良い顔をし、やり込められたら我慢ならず短絡的な仕返しに走る。

常人から見ると、主人公の同居人の染谷将太さんも含めたメイン三人は不誠実でその日暮らしな、褒められはしない若者かもしれないが、己の気持ちに常に正直に、余計な忖度はせず、気遣いも遠慮もほどほどに触れ合う者同士の姿はある種、どこまでも「誠実」そのものである。
好きなように生きている三人だが、いわゆる犯罪には手を染めず、ささやかに飲んで歌って騒ぐだけ。無軌道な少年犯罪映画とは根本的に気質が異なっている。

物語終盤、石橋静河さんが主人公の柄本佑さんに、染谷さんと付き合うことを伝え、それまで愛憎など絡めずに体を重ねていた主人公はすんなり受け入れる。
ところがその別れ際、彼女を呼び止めて「好きだ」と打ち明け、それを受けた彼女の怒りとも落胆とも安堵ともとれる表情で幕を閉じる...。
これまで彼らが徹底した彼らなりの「誠実さ」か、それとも世人が理解し浴するところの道理か...彼女の選択は如何に。

その幕切れ、往年のハリウッドの異形のラブロマンス『ラスト・タンゴ・イン・パリ』を彷彿とさせられた次第。
これまでお互いの素性を求めず愛し合ったマーロン=ブランド演じる中年男が世俗的な求婚をした時、若き娘を演じるマリア=シュナイダーの愛は急速に醒め、彼を...。
この作品の三人はどういう収束をさせたか、想像を膨らませるのが心底面白いところ。
O次郎

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