けーはち

ハウス・ジャック・ビルトのけーはちのレビュー・感想・評価

ハウス・ジャック・ビルト(2018年製作の映画)
3.7
『ドッグヴィル』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』等、鬱展開に定評のラース・フォン・トリアー監督。建築家でアーティスト気取りの殺人鬼ジャックが理想のお家を建てる話。

女・子供を狙ってたっぷり怖がらせ痛めつけモラハラして殺す、母親の面前で子から殺す、死体を変形させアートにする等、見た目のグロさより倫理的な方面でムナクソな要素満載である。

とはいえ、殺人鬼なのに強迫神経症・潔癖症でキレイ好きだとか、サイコパスで共感性がなく無表情なのを自覚して鏡の前で表情の練習をするとか、スマートに侵入しようとしてあまり上手くない嘘を並べ立てて信用されるのに手間どるとか、ライフルを用意したら標的に近すぎて照準が合わないなどのグダグダ展開、衝動的に犯行に至って手口が雑なのに上手くいってラッキー(笑)みたいな、狂気の中にも程よく間抜けで人間臭さを垣間見せるコミカル要素も。

何より性的欲求やストレス発散、殺人によってしか果たされない一定の欲望を満たすためのシリアル・キラーらしい一貫性がない。アートとして毎回毎回、新たな試行、新たな趣向を凝らしてしまう彼は、シリアル・キラーそのものとしてより、監督自身が鬱映画を造る事を暗喩して造形されたキャラクターなのかもしれない(トリアー監督自身が沢山の恐怖症、精神疾患を抱えこんで生きている)。

メタテキストとしてダンテの『神曲』地獄篇をひいていて「鬱映画でいっぱいイヤな気分にさせてごめんな、地獄ってもんがあるなら落ちるぜッ!」ってオチで監督の気概を感じた(左派でヌーディストの両親が芸術家の子種を欲しがったため実父は別だという事を知って、無神論者だった彼は、一時期反発心からカトリックにハマっていた)。賛否くっきり別れる理由も分かる怪作。