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最低。のlpのレビュー・感想・評価

最低。(2017年製作の映画)
4.0
2017年秋、東京国際映画祭のコンペに、蔑視されがちな「AV」を題材にした日本映画が選出された!
この時点で既にとてつもなく気になっていたけど、映画祭ではスケジュールが合わず、公開初日に鑑賞。そしてこれが見事な良作だった!

最初に誤解しないで欲しいのは、「AV」が題材ではあるし、劇中には何回かSEXのシーンも出てくるけれど、今作は「AV業界を描くこと」には全く主眼を置いていないこと。だから「AV業界の裏側が分かる」なんてことも、全くないです。むしろ今作が丁寧に映し出すのは、蔑視されがちな存在であるがゆえに、「AV女優」に憧れ、縛られ、翻弄される。そんな女性達の生き様です。

日常からの脱却を求めてAV女優デビューを果たす主婦。自分の居場所をAV業界に見定めて仕事に没入するAV女優。元AV女優の母親の存在から、孤独を抱える女子高生。この3人の女性のある2日間を、映画は群像劇として映し出します。
「AV」が共通のキーワードなので、各エピソードは直接的な繋がりを緩やかに持つけれど、基本的に個々の物語は独立した話になっています。
しかし、話が進むなかで3人の女性が求めるものは、何れも「他者との繋がり」であり、そして繋がりを通じて得られる「自分は確かに生きている」という生への実感だったと伝わってくる。

「AV」というミクロなテーマから、他に通ずる普遍的な物語へと昇華させた時点で、今作は紛れもない傑作に感じた。
そしてさらに素晴らしいのが、終始一貫して中立的な視点で人物描写を行っていること。蔑視されがちな「AV女優」に対して、「偏見を無くすべき」と主張するのでもなく、突き放すのでもなく、淡々とひたすら日常描写を積み重ねている。演出も終始控えめで、音楽もほとんど使用せず。
しかし、描くべきポイントはしっかり抑えられているので、3人の女性の心の揺れ動きは、時に直接的に、時には間接的にも、観ているこちら側にしっかり伝わってくる。それでいて、不思議と重苦しさは無し。暗い要素も含むし、ボリュームがある話にも関わらず、これは凄い!

キャストでは渡辺真起子が印象に残る。後半の佐々木心音とのシーンでは、渡辺真起子の力と画の力だけで、心を揺さぶるシーンを成立させていて凄い。そしてもう1人印象に残るのは、主演の森口彩乃。「一見真面目そうに見えるけど・・・」という絶妙な存在感だった!

『感染列島』や『ストレイヤーズ・クロニクル』など、ビッグバジェットの大作では、とんでもない作品を送り出してきた瀬々監督だけど、今作では力量の高さをしっかり見せています。東京国際映画祭のコンペ選出にも納得。それどころか、もしも映画祭期間中に観ていたら、グランプリ候補に挙げていたと思う傑作です。
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