都部

この世に私の居場所なんてないの都部のレビュー・感想・評価

3.0
『貴女より大変な人はいるんだよ』
という文句は基本的にクソで、世界だとか他人だとかの悩みと相対化して偉大なる私の悩みを陳腐化してんじゃねぇよとキレるのは至極正当な怒りなのですが、それが暴力や暴走として他人に向けられる際に生じるカタルシスは一塩なのは言うまでもないでしょう────本作は社会的弱者である主人公の鬱憤が『暴』により晴らされる物語であり、オフビートなコメディセンスや独特なテンポ感がそれを脚色することでひとつのクライムコメディとして成立しています。

強いて言えばもう少しグロテスクな描写は多くても良いと思いましたが、あくまで個人規模の暴走が第三者の悪行と運悪く絡んで他者の死を誘発するものとなっていくという、規模感に見合った暴走であるからこそラストは地に足を付けることの普遍的な幸福を示唆するものとなっているので納得と言えば納得です。

しかしながら結末の『普遍的な幸福』が意味するのは、変わった物語であるにも関わらず それに見合わない普遍的でしかない結末ともいえて、この振り切りの半端さが人生と言えばそうなのかもしれませんが、物語としては引っ掛かりを覚える着地かなと思わなくもないです。

変人を演じるイライジャ・ウッドの演技はなかなか良く主人公を食う勢いでキャラクターを立てていくので、却って主人公のキャラクター性の薄さ──芯は感じられますが我はあんまりなので結果として薄く感じる──目立ち、緩やかな不幸や不平等に囚われた自分の人生に異を唱える物語であるからにはもう少し我欲やその人特有の癖のようなものが見えると味わいはより濃くなったのではないかと思います。
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