りっく

南瓜とマヨネーズのりっくのレビュー・感想・評価

南瓜とマヨネーズ(2017年製作の映画)
4.4
夢を追いかけながら生きる人は輝いている。けれども、その輝きには年齢制限があり、どこかで諦めや妥協や踏ん切りをつけないと、その姿は惨めで滑稽に写ってしまう。太賀が演じる口だけ達者なミュージシャンの男は、いわゆるヒモでありながらも、作曲は全然進まず、大衆的な音楽に走る元メンバーたちに悪態をつきながら、陰では悔し涙を流しもがく。

一方で夢を追いかける男の姿に惚れ、あるいはそんな男を支えて夢の後押しをする、そんな自分が好きな女がいる。臼田あさ美演じる女は2人分の生活費を稼ぐために、ライブハウスのスタッフとガールズバー、さらには愛人として自らの身を差し出し、お金をせっせと作ってくる。冒頭で年齢や名前をごまかして働き始めることから分かるように、彼女には主体性がなく、夢追い人に寄生してしまう、そして別れても心の底ではそれを引きずってしまう存在である。

本作はそんな男女の物語であり、夢を諦めて働き始める男に対し、夢を追いかけているその姿に惚れていた女は、徐々に彼から心が離れていく。けれども、ふたりもいい歳になってしまい、グダグダな共同生活から離れることができない。そんな「夢」というものが持つ磁場に囚われた男女の、不安、焦燥、苛立ちといった感情を見事に掬い取ってみせた傑作である。

特に終盤に元カレのオダギリジョーと再会し心惹かれてしまうことで彼女の気持ちは大きく揺らぎ、ついに引きずってきた過去、そしてグダグダな現在に踏ん切りをつける。だからこそ、彼が作曲した優しく素朴な歌が、彼女だけに披露されたとき、涙を禁じ得ない。

それは、ふたりが夢見たものが実現した瞬間であり、楽屋という閉ざされた空間で漂う、その時間の愛おしさに胸打たれる。決してミュージシャンとして大成した、ヒットを飛ばしたというようなことではない。ただ、この光景を彼氏彼女という関係性で見たかったという眼差しを含め、素晴らしい場面であり、その後太賀と別々の道を歩む臼田あさ美の表情も心に染みる。
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