りっく

ビジランテのりっくのレビュー・感想・評価

ビジランテ(2017年製作の映画)
4.3
暴力的な父親が遺産として残した地方の広大な土地を巡り、幼少期に離れ離れになった三兄弟がそれぞれの思惑から再び集い、そして土地にひれ伏して生きるか、土地に固執し命を落とすか、いずれにせよ残酷な運命に絡み取られてしまう様を、日本の地方都市を舞台にフィルムノワール調に映し出す。遠くでポツポツと煌めく灯りと、その手前の不気味な暗闇のコントラストが絶妙で印象的。

その土地は祖父が戦争から帰国し汗水垂らして働き購入した特別な場所であるが、現在は低賃金で働く中国人労働者の集落があり、地元住民と対立している。その構図は戦時中と一緒であり、実際に復讐の連鎖により、その土地にあるものは一掃される。ある地方都市の土地を巡る話から、人種間のいがみ合いが繰り返される歴史を浮かび上がらせる点も見事。

その土地は大型ショッピングモール建設計画を遂行するために、どうしても押さえておかなければならない土地である。だからこそ、本作で唯一生き残る二男は、最後に全てを悟り、建設計画推進委員会に選出されたスピーチで涙を流しながら深々と頭を下げる。無能な二男の周囲の人間が画策謀略取引をし、彼は周囲が調整したレールの上をただ進むだけの意思のない操り人形としての人生を生きるしかないという諦念と、そんな自分への腹立たしさが同居した名場面である。

一方で長男は地元のヤクザと横浜から乗り込んできたヤクザに板挟みにされ、土地の借用書を破棄するよう脅されるが拒否し絶命。三男もガソリンスタンドで長男を殺したヤクザに復讐しようとし返り討ちにあう。ここでの銃撃描写は家の外や車の外にカメラがあり、銃弾が発射される光が強調される。どこか北野映画を彷彿とさせる暴力描写だ。

本作は長男が殺される前にしきりに口走る「靴を脱げ」という台詞に象徴される。一家三兄弟の土地の問題にあらゆる方面から他人が各々の私利私欲でズカズカと土足で踏み込んでくる。地方都市のほんのひと区画をめぐる物語は滑稽でもあり、地域を限定することを避けた描写によって、現代日本を描いた普遍性も勝ち取ることができている。
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