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ワイルド・スピード/ファイヤーブーストのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

2.0
【修羅場を通じたローマ観光】
2001年に発表後20年以上にわたるシリーズとなった『ワイルド・スピード』。元々は潜入捜査バディもので、直線レースを扱っていた作品だが、シリーズを重ねるごとにアクションがインフレしていき、たくさんの車をぶつけて飛行機を止めようとしたら、スカイダイビングをさせたり、前作では宇宙へ飛ぶまでにいたった。しかし、脳筋映画である本シリーズではあるが、本作における「ファミリー」の概念は注目すべきところがある。一般的な家族というよりかは、企業が家族ぐるみの付き合いをするような感じであり、利害が一致すれば敵であろうとも共闘するし、性別・人種関係なく対等な対話を行う。これを自然に行うので、理想的な多様性の映画となっているのだ。イメージとしては、『ドゥ・ザ・ライト・シング』にて対立していた白人、黒人、中南米系、アジア系がミッションを通じて一丸となるような空間を実現するシリーズといえる。さて、最終章のPART1にあたる『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』を観た。今回のヴィランはそんな「ファミリー」像と対峙するタイプのものであった。

相変わらず、ド派手なアクションがウリな作品。今回の目玉は、ローマを舞台にしたカーチェイスだろう。ドムたちがトラック強奪ミッションをする中で、ジェイソン・モモア演じるダンテの罠により窮地に立たされ、巨大なボール状爆弾を止めなければならなくなる。これが観光映画としてよくできており、世界遺産であるフォロ・ロマーノ、コロッセオから始め、ボール状の爆弾がヴァチカンへと向かう道中で、要所を押さえる。球状のギミックが映える場所として、『ローマの休日』にてオードリー・ヘップバーンがアイスを食べていたスペイン広場の階段を転がり、サンタンジェロ橋まで流れこむ。ローマの階段と、狭い通路、広い道路を巧みに使ったアクションが魅力的であった。

本作は、ドム一派の「ファミリー」観を脅かす存在がヴィランとして配置される。本シリーズにおける「ファミリー」はビジネス的側面を持っていて、互いに合意が取れれば、ジェイソン・ステイサムのような狂犬であっても仲間にすることができる。しかし、ダンテは一匹狼であり、群れを使って攻め込んでも、個々は駒として消費される存在。簡単に裏切るし、対話が成り立たない存在としてたち憚る。ワイスピ史上最凶のボスだ。しかし、この設定がかなり弱かった。対話不能であれば、サイコパスに振る舞うべきなのだが、ダンテには狂気性を全く感じられない。安易なトロッコ問題を消しかける。肉体的にもドライブセンス面でも強いのかと思ったら、割とセコいアクションをしていた印象を受けたので、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』的立ち回りの作品なのだが、なんでドムたちが劣勢になっているのかがよく分からなかった。

次回作ありきな内容なので、単体では2時間半近くかけた割にアレな作品であった。

CINEMAS+さんにて寄稿しました!

<考察>ワイスピにおける「ファミリー」は何を指し示すのか?▼
https://cinema.ne.jp/article/detail/51448
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