えいがドゥロヴァウ

ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男のえいがドゥロヴァウのレビュー・感想・評価

3.9
ゲイリー・オールドマンは先日亡くなられた大杉漣のような存在で
名脇役として名を馳せてきました
その数少ない主演作『裏切りのサーカス』を前日観直しての鑑賞と相成りました

役者は衣装を着ると役に入り込むと言いますが
それが辻一弘の手によるチャーチルの皮を被るとなると
その憑依ぶりもひとしお
でも目がゲイリー・オールドマンなんですよね
それがまた良くて
彼の目って黒目(青いから青目?)が大きくて澄んでいて愛嬌があって
それがチャーチルの人柄を一層魅力的な印象にしていたように感じます

主なプロットとしては
ナチスドイツの侵攻に対して徹底抗戦を謳うチャーチル首相と
和平交渉の必要を標榜する与党最大派閥とのせめぎ合いが焦点となっています
そもそもが前首相チェンバレンの宥和政策を引き継げるハリファックス卿が首相就任を辞退したことから
(尤もらしい理由をつけながらこのDarkest Hour=暗黒の時期に首相になることを嫌がったと見て取れるような演技が何とも可笑しい)
野党受けが良いというだけの理由で選ばれたチャーチルで
与党の人間からはそれほど支持されていなかったことが窺い知れます
チャーチルは「自分の敵を側近に据えたがその数が多すぎたのかもしれない」と
当の側近であるチェンバレンやハリファックス卿らに対して言い放っています
そのようなイギリス人らしい皮肉のユーモアがチャーチルの口から度々発せられるのが
本作の楽しみのひとつでもあります
しかしチャーチルが国王(ジョージ6世)に「ヒトラーに恐れられている」と評されるに至る経緯の描写が希薄で
史実であるにせよドラマとしての起伏に少し無理が生じているように感じました

初登場シーンでの見事なまでに偏屈で理不尽なジジイっぷりから
終盤の大演説にかけて
チャーチルの人柄を多角的に捉え
その妻の内助の功と美人秘書との信頼関係などを絡めつつ
"愛国心"について迫る胸熱な映画でございました
ダンケルクのダイナモ作戦も大きく関わっているのでクリストファー・ノーランの『ダンケルク』と併せて鑑賞するのも良いですね
あるいはジョージ6世を描いたコリン・ファース主演の『英国王のスピーチ』も関連作として挙げられましょう

演説のシーンでの周囲の熱狂はヒトラーのそれと自分の中で重なり合い
ここで言葉の力によって政治を主導したチャーチルとヒトラーの類似性を見出さずにはいられませんでした
ヒトラーと同類視するとは何事か!と怒られそうですが
お互いに多少なりともシンパシーや同属嫌悪があったように思えます
ヒトラーが率いるナチスドイツの狂信的な脅威に唯一対抗しえたのは
またそういった狂信的な愛国心であったのかもしれません