Masato

ファースト・マンのMasatoのレビュー・感想・評価

ファースト・マン(2018年製作の映画)
4.4

IMAXレーザーにて

冷戦時代における一つの戦争

海外のユーザーから「退屈、長い」と批評が結構あって、ハードルを下げてみたが、確かにかなり地味な映画。ヒューマンドラマというよりも、モキュメンタリー映画と言ったほうが近い。ジョシュ・シンガーが脚本であるように、スポット・ライトやペンタゴンペーパーズのような地味さ。

ただ、訓練のシーンや飛行のシーンは迫力があり、クライマックスのシーンは息を呑む臨場感であることは間違いないので、わずか数分だけのIMAXカメラ撮影シーンであっても、IMAXで鑑賞する意味はある。監督はIMAXを有効活用している。殆どが15mmと35mmのフィルムグレイン強めな映像で、手ブレばかりでリアリティあるシーンばかりで、モキュメンタリーそのもの。ただ、カメラワークは現代的な被写体距離が近めで、細かなカット割りとダイナミックな映像ではあるので、アナログとデジタルが融合したような感覚になる。

ちなみに、IMAX、IMAXレーザー、ブルーレイ版IMAXとアスペクト比が3つとも異なるので参考に。

デイミアン・チャゼル監督はメタモンのような人物で、ミュージカルから地味な映画まで変幻自在に撮れる。天才というより秀才という言葉が近い。ハーバード大卒のエリートなので本当に秀才なのだが、「ララランド」では、往年のミュージカルや名作を徹底的に学習して作られている。今回は、明らかにクリストファー・ノーランを意識して作られている。飛行のシーンなんかの特撮はインターステラーそのもの。

私は、この映画をドラマとして見ていたが、途中からは一種の「戦争映画」として見ていた。

主人公のニール・アームストロングは個人の意思をもって月面着陸の作戦へと参加するが、当時は冷戦時代。ソ連とアメリカがしのぎを削り競争をはかっていた。

月面着陸への道のりは想像を絶するほど過酷で、数々の同期が死んでいく。またひとり、またひとりと。次は自分の番ではないのか?と不安に駆られる。そんな感情は戦争で仲間が次々と死んでいく姿と重なってくる。
また、ニールの妻も同期の妻が未亡人となっていくなかで不安に駆られる。まさに戦争そのもの。

次に、ニール(NASA)と世間との乖離。ニールは月面着陸へ向けて着々と準備を進めているが、度重なる事故で世間の風当たりは強くなっていく。多額の税金をはたいてまで月に行く必要とは?と世間には厳しい目で見られる。また、ベトナム戦争の最中、現在の政権に疑問を持ち始め、ヒッピーも流行りだし、反社会的な雰囲気が強くなる。ニールは死ぬ思いで努力をしているのに、世間はそれを知ることもなく非難する。競争のため、急を要する過酷な作戦にニールと仲間たちは愚弄されていく。まるで、国家と兵士の関係性だ。

そして、結末は誰もが知るように月に降り立つ。いままで、非難し続けてきた世間は、一気に手のひらを返し褒め称える。世間の盛り上がり方に違和感を持つ。ニール本人ではなく、アメリカを称え、ナショナリズムを煽った。そして、ニールはふと思い返す。私は何のために月へ行った?目的がもう分からなくなっていた。残るのは娘の想いのみ。これも、戦争に行った後の「戦った理由が分からなくなる」感情に近い。

以上のように、私には戦争映画との共通点が多く見受けられた。故に、私はこの映画を「宇宙開発競争という名の戦争に翻弄された1人の男とその家族、仲間たちの物語」と称したい。ハッピーエンドとも、アンハッピーエンドとも言い難い。複雑な終わり方をする。

月面に足跡を最初に残した偉大な人物であるのに、ただナショナリズムを煽るだけの手段としてしか扱われなかったとして、監督は批判していると思う。だからこそ、本作はニール・アームストロングという人物を、英雄としてではなく、1人の人間として、悲しみも苦しみも喜びも交えてリアルに描ききった。そういう点として、私は本作を傑作と言いたい。ペンタゴンペーパーズと同様に60年代のアメリカ政権を批判している。

アメリカ万歳映画ではない。
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