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わたしたちの家のemilyのレビュー・感想・評価

わたしたちの家(2017年製作の映画)
4.0
 14歳の誕生日を迎えるセリ、父は失踪し、母は最近恋人が出来てあまり良い気分ではない。一方目覚めるとフェリーの中、一切の記憶のないサナ。トウコという少女と出会い彼女の家でお世話になることに。二つのストーリーが同時に描かれる。同じ空間で、同じ家で、同じ場所からカメラは執拗に捉え、同じ空間の違う物語が始まる・・

 冒頭からファンタジーのような少女が躍る姿が映し出される。白いワンピース、ぐるぐる回る中で飛び交う少女の笑い声、ふわふわした世界感は一気に切られ、”何か”を感じさせながら二つのストーリーに入っていく。台所の横の部屋の向こうからカメラは捉える。同じショットで家を捉え、二つの物語が確実に同じ空間で展開されている事を感じさせる。そうして主人公たちが”何か”の存在を感じる。互いのストーリーの中に子供が性に目覚めたり、青春のあいまいな物と目に見えない曖昧な物が交差し、光と陰、風、カーテン越し、ふすま越し、小物やカメラの存在を巧みに操り、常に何かを感じさせる。

 その違和感が観客の心をつかみ、音で、小物で二つの並行世界が徐々に繋がっていく。カットとカットを絶妙につなぎ合わせ、まるで二つの世界が横に奥に繋がっているように空間を巧みに操っていく。

 徐々に徐々に核心に近づいているようで、真実は全く明かされない。しかし明かされないからこそ、そこに興奮を覚え、観客は自分の物語を構築していくのだ。見た人の数だけ解釈があり、何が正しいかではない。本作は非常に実験的な試みをされており、それを受け取り、何を思い何を考えるか、それはそれは贅沢で充実した時間を過ごす事が出来る作品になっている。

 ラストも非常に爽快で心地良い。まるでそれは観客に向けられたようで、その中身を決めるのも、また決めないのも観客にゆだねられている。カメラワークも光と陰を巧みに操った色彩も、また小物を使って見せるカットとカットのつなぎも絶品だ。空間のつなぎにより不在の物を感じさせる、わたしたちの家は狭く閉鎖的でありながら、どこまでも奥深く可能性を秘めているのだ。
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