かたゆき

シドニー・ホールの失踪のかたゆきのレビュー・感想・評価

シドニー・ホールの失踪(2017年製作の映画)
3.0
既存の価値観を真っ向から否定するような挑戦的な内容で、全米ベストセラーとなった青春小説『郊外の悲劇』。
デビュー作にして一躍時代の寵児となった作者であるシドニー・ホールは、プレッシャーからかなかなか二作目が書き出せずにいた。
そんな折、この小説に影響された青年が自らその命を絶ち、全米中で賛否両論含めた議論が巻き起こるのだった。
精神的に追い詰められたシドニーはある日、着の身着のままの姿で失踪してしまう――。
以来シドニー・ホールの消息は誰にも分からず次第に人々は彼のことを忘れていった。
だが、七年もの月日が過ぎたころ、いくつかの図書館で彼の著作が燃やされるという事件が多発する。
老犬を連れ、ふらりと現れた犯人こそが彼なのではないか。
疑問を抱いたある人物が彼の調査を開始する。
浮かび上がってきたのは、シドニー・ホールという男の深い哀しみに満ちた人生だった……。
失踪したベストセラー作家のミステリアスな半生を、三つの時間を行き交いながら綴るヒューマン・ミステリー。

描かれるのは作家シドニー・ホールのまだ無名だったハイスクール時代と、やがてベストセラー作家となった彼の栄光とプレッシャーの日々、そして一匹の老犬だけを相棒に全米を放浪する空白の時期という人生のターニング・ポイントとなった三つの時代のエピソード。
この三つの時間軸を複雑に行き交いながら同時並行で描くという難しい手法を使っているのですが、ちゃんとそれがいつの時代の話なのか観客に分かるように描き分けているのは巧いと思います。
どの時代のお話にもちゃんとそれぞれに明確なテーマと謎が存在し、全体としてある一人の男の人生を重層的に浮かび上がらせることに成功しています。
そして、それら三つの時代に様々な姿で立ち現れる美しい女性メロディの存在も煌びやかで大変いい。
彼女を演じたエル・ファニングがとてもキュートで、まさに嵌まり役。

ただ、物語の終盤、それぞれのエピソードに隠された謎が全て明らかにされるのですが、それらが一本の映画としてうまく纏まっていないのが本作の弱いところ。
青春期の初恋と友情、デビュー後の挫折と喪失、失踪後の絶望と再生、これらの要素が有機的に巧く絡み合っていません。
なんだか別々の映画を一本に編集しなおしたような印象を受けてしまいました。
きちんと整理されたストーリーテリングが抜群に巧かっただけになんとも惜しい。
かたゆき

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