モダニズム建築の宝庫として知られるインディアナ州コロンバスを舞台に2人の男女の出会いを描く。
小津安二郎映画に欠かせない脚本家の野田高梧に因んでコゴナダと名乗る新進監督による長編デビュー作。
とても静かで、芸術的な美しさを内包した作品。
建築学者の父が倒れたという報せを受け、韓国に移住していた息子のジン(ジョン・チョー)はコロンバスを訪れる。彼が出会ったのは、母の看病を理由に夢を諦め、この街に留まる図書館員のケイシー(ヘイリー・ルー・リチャードソン)。二人の運命が交錯し、建築を巡り、語る事で、それぞれが新しい人生に向かって歩み出す—— 。
エリエル&エーロ・サーリネン?
I.M.ペイ?
リチャード・マイヤー?
デボラ・バーク?
アメリカを代表する建築家なぞ、これっぽっちも知らないけれど、美しい建築物の数々に惚れ惚れしてしまう。あらゆるシーンが絵葉書のよう。ホテルの廊下ですら美しい。
左右対称と左右非対称。
自分を蔑ろにし、建築に没頭した父との確執が残る息子=親と離れたい子供。
薬物依存から立ち直る過程にある母に縛られたまま、街を出る事が出来ない娘=親から離れられない子供。
彼らの置かれた立場も対照的であり、対称的。
父の助手であるエレノアという女性に若い頃から惹かれていたジン。男女の心の擦れ違いを2枚の鏡越しに描く演出センスに脱帽。
「テーブルが庭の噴水を模しているの」
エレノアの説明と同じ説明をケイシーが説く。2人にもやはり共通点があるのだ。
エレノアが教授を探し回る冒頭のシーンと
ケイシーがジンを探し回る終盤のシーンが重なる。
驚いた。
この映画もまた対称なのだ。
あらゆるショットの構図を愉しむ。
左右対称のものばかりではなく、非対称でもバランスが取れており、その絶妙な塩梅での美しさが堪らない。
建築の事も、小津安二郎オマージュも、どこがどうと説明するのは難しい。言語化するのではなく、とにかく観て、感じるしかない。そして静かな感動の手応えだけが心に残る。
「search」のジョン・チョー。
同監督の「アフター・ヤン」にも出演したヘイリー・ルー・リチャードソン。彼女の柔らかな表情が魅力的。
心の中で何かが欠落した男女が
恋愛とも違う関係性の中で
建築を通して語り合ったひと時が
細い細い糸を紡いで絆を作った。
そんな、ひと時を繊細に描いた秀作。