1962年のアメリカ。口のきけない清掃婦のイライザが、アマゾンから捕らえられてきた未知の半魚人と恋に落ちる、大人のためのファンタジー(性的な描写やバイオレンスもある)。表面だけなぞったらB級映画になりかねないストーリーなのに魅力的な映画になっている。
障害をもつヒロイン、同性愛の男性、有色人種の女性。歴史の中で常にマイノリティだった人々が、孤独を感じながらも寄り添いささやかな幸せを味わいながら日々を過ごし、最終的には白人男性的マッチョな存在の支配に勝つ。
インテリアや衣装の細部までこだわった美しい映像、懐かしく素敵な音楽。そして若くも美人でもない主人公をセンシュアルさと純粋さの同居する形でかわいらしく魅力的に描いているのに好感が持てた。
声を失った「人魚姫」や「美女と野獣」(野獣は王子の姿にならない)や、古い映画へのオマージュ、随所に散りばめられた意味や暗喩を読み解いていったら更に楽しめるかもしれない。
ヒロインを映画館の上に住まわせた設定は、昔の映画への賛辞とマーケティングに基づいた今のハリウッド映画へのアンチテーゼでもあるのかも。
悪役として描かれている白人男性の警備員役の怪演もなかなか見どころ。
トランプ政権のアメリカをはじめとする世界のいびつさに物申したかった監督の意図がちゃんと伝わり、単なるファンタジーにとどまらない奥行きのある作品になっている。
私の友人は半魚人が気持ち悪くてダメだったらしい。始まって早々のあるセクシャルなシーンに私もギョっとした。そんなダークさもあるユニークなファンタジー。
独特の世界観を見事に描ききったこの映画の良さを味わうにはやはり映画館のスクリーンで見るべき。