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彼女の人生は間違いじゃないのmのレビュー・感想・評価

4.7
震災後の数年間に色々作られた震災を扱った日本映画はどれも震災を扱う必然性の無いものばかりで(今作と同じ廣木監督作「RIVER」もそうだった)、作り手の気概はあったがその気概とは裏腹に震災を利用しているように見えて個人的にはむしろ反感を抱いてしまっていた。
ただ、あの時の被災地を今残しておかなければ、記録しておかなければいけないという切迫感は理解できた。今ならその必要性がよく分かる、本当に私たちは様々な事をあまりにも簡単に忘れてしまうから。

この映画では遂に、この被災地の事を記録として残しておかなければいけない・改めて今世に伝えなければいけないという必要性と、映画の物語に対する描写としての必然性とが結び付いたと思う。作られるべくして作られた、重要な作品だった。


実は瀧内公美の出演作を観た事が無くて、今回初めて彼女の芝居を観たのだけれど本当に素晴らしかった。光石研、柄本時生ら素晴らしい俳優陣の中でも彼女は決して埋もれず、その自然な力強さがこの映画を牽引している。良い女優だと思う。


役者の芝居の呼吸に直感的に上手く合わせた手持ち撮影も良い。




観る前は彼女の裏の生活として性を描く事は古い日本映画人の感覚だと思っていた。生の実感としての性というお決まりの概念やら、脱いで女優開眼とかその方が映画が売れるからとかそういう邪な古臭い意図があるのではと邪推していたが、実際映画を観てみて安心したのがそうした下心のようなものがこの映画からは感じられない事だった。性描写やヌードも扇情的ではなく、デリヘルという職業は役所の仕事と並列にさらりと描かれる。

ただそれでも、いつか、別に性行為やヌードといった『分かりやすく強い』表現を用いる事なく、彼女のような女性の事を描く日本映画が作られれば良いなと思うのだけど。



変化はあれど、普通の映画ならありそうな主人公の分かりやすい決断をこの映画は描かない。冒頭の寝起きの彼女が炊飯器を開ける横顔を自然に寄り添って捉える時と同じように、彼女の日常生活に寄り添って映画は終わっていく。これからも彼女達は少しずつ変化していきながら、なんとか生きていくのだろうという予感と共に。
彼女の選択に説教臭い善悪論を加える事なく作り手はこの映画の前向きで直球な題名の通りに、彼女の生きる道をささやかに肯定して見つめている。
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