富田健裕

ライオン・キングの富田健裕のレビュー・感想・評価

ライオン・キング(2019年製作の映画)
3.7
ハクナマタタは人生の合言葉!
風の向くまま、気の向くまま、人生一様に獅子生もそれで善し。
但し前見ることだけ忘れるな、振り返っている暇はない。
進め!吼えろ!謳え!
さすれば眼前の景色はきっと変わるさ!

実写化という言葉に少なからず違和感を覚えてはいたものの、やはり大画面に映し出される映像は圧巻だった。(最近は映像に圧巻する事が多い・・・。)
筋肉の流動から、網膜、瞳孔の微細な変化、全てがリアル。
加えてアフリカと思しき大地の明暗両面の描き分けも巧みで、本作が地球という生き物を舞台とした作品であると改めて感じさせて貰った次第。

「良い芝居の基本とは何もしない事だ」とよく言われるが、動物たちの表情の変化が決して大きくないが故に、音楽や情景の演出とプラスして観客の感受の許容が合間れば、登場動物たちの感情は(情報量が少なくとも)伝わって来るものがある。

とは言いつつも、かなりユニークな映画であることも確かで。
映像がリアルであり過ぎるが故に「“見た事ある筈だけど”絶対に見た事がないこんな映像!」のオンパレード。カリカチュアされているからこそ堪能出来る擬人化という要素だと思っていた所に、絶対条件を根こそぎ取っ払った状態で作品がパッケージングされているものだから、冒頭は色々な部分がやや滑稽に映ってしまいノリ切るまでに少々時間がかかってしまった。
どうしても“可愛い”とか“動物っぽい”が先に立ってしまう。これはもう仕方の無いところではあるのだけれど。
むしろ、だからこそ、観客は登場動物たちの織り成す社会模様を何とかして身近な状況に重ね合わせて作品を観ようとするのではないだろうか。そういった意識の変換を誘発するという意味では、とても重要で偉大な作品だったんじゃないかとも感じる。

都合よく雨が降ってきたり、霧が立ってきたり、挙句の果てには落雷からの火災が起きたとて、全てを許せてしまうのは作品の底力なんだと感じた。
シンバの消息が風に乗って故郷に伝わる一連の感動的なシークエンスは超実写版だからこそ成せる業。これこそ奇跡の偶然性。
結局のところ自然は誰の味方でもなく常にありのまま。出生、生い立ち、宿命、その全ては自然の摂理の中にある。それを味方に付けられるか否か、寄り添えるか否か。
富田健裕

富田健裕