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リバー・オブ・グラスのmanamiのレビュー・感想・評価

リバー・オブ・グラス(1994年製作の映画)
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ケリー・ライカート監督。アメリカでは「インディーズ界の至宝」と讃えられてるらしい。Filmarksのリストによるとこれが一番古いけど、初監督作品ってことなのかな。
もしそうだとしたら、巧みすぎるんだが。確かに荒削りと言える部分もあるにはあるけど、終わってみれば「たったこれだけのこと」と言えるような内容を、見事な足し引きや緩急で1本の作品として成立させている。デビュー作でこれとは恐れ入る、さすがは至宝。
主人公はコージー、冒頭の「自己紹介」モノローグからさっそく引き込まれる。「平凡で普通でありきたりな日常を穏やかに過ごしている」ように側からは見える彼女の、心の中は実は空っぽだ。
いや、本当に空っぽならばまだましで、正確には「空っぽ」というナニカで埋め尽くされている。だから人生がひっくり返るような事件の只中にいても、彼女の心にはそれが入り込む隙間がない。人生が変わるような出会いをしても、隙間がないので響かない。
そして図らずも犯してしまった罪で逃げ隠れすることになっても、モーテルの絵がどうこうだとか、自分の世界からいっこうに出てこない。途中でウィッグを被る場面があるけれど、彼女自身が常に「コージー」という被り物をしているかのような、他人事感。そして誰かのおままごとに付き合っている子どものように人任せ。
ただ、とある悲劇が実際には存在しなかったということを知ったとき、初めてきちんと狼狽える。側からは馬鹿げているとしか思えないけれど、彼女にとっては「逃亡すべき自分」が、ようやく何者かになれたというアイデンティティだったのだろう。
ラストはスカッとするように見せて、コージーや周囲の人々の今後を思うと、救いようのない悲劇だ。

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