真一

ザ・キングの真一のレビュー・感想・評価

ザ・キング(2017年製作の映画)
3.5
 強大な権限を付与された韓国の検察組織。その検察が何十年にもわたって政界や暴力団と癒着して公訴権を私物化し、不正蓄財から殺人まであらゆる犯罪に手を染めていた―。自らも腐敗に染まっていく若手検事パク・テス(チョ・インソン)の目を通じ、権力犯罪の闇を描き出した典型的な「韓国ノワール」作品だ。

 とにかく不正と腐敗の横行が凄まじい。韓国の検事が検察組織で上り詰めるためには3つの鉄則を貫徹する必要があるようだ。本作品は①次期トップ候補に忠誠を誓い、派閥を全力で支える②暴力団から賄賂と情報を吸い上げ、自らの権力基盤にする③支持する政治勢力を見定め、捜査権を悪用してライバル勢力のイメージダウンを図る―の3本柱の上に検事の立身出世はある、という見方を示す。

 「ソウル大学卒で司法試験をパスした検察官が、暴力団とつるんで悪の限りを尽くすなんて、韓国映画特有の誇張だろう」と思いつつ、念のためネット検索してみたら、あった。実例が。それも最近起きている。検察官が暴力団に殺人を依頼したケースもあった。本作品のベースには、そうした事実があるのだ。恐ろしすぎる。

 本作品は、検察組織による大統領失脚作戦も取り上げた。かつて盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が汚職疑惑により任期途中で引責辞任した背景には、検察の政治工作があったというのだ。リベラル系の盧武鉉は、腐敗した検察に対する大改革を主張し、推進していた。本作品は、この取り組みが検察による報復を招いたという見方を示している。本当にあった話だろうか。闇が深すぎる。

 ただ、これを見て「韓国は恐ろしい国だ」と決め付けるのは、間違いだと思う。日本でも与党政治家、霞が関官僚、有名企業の社員らは、高みに上り詰めるために国家権力者に取り入り、または経営者のイエスマンと化し、組織のために汚れ仕事も引き受ける。そうした「日本の風土」が、森友問題や電通五輪汚職で浮き彫りになったのは、記憶に新しい。

 日本の多くのエリートを支えているのは「権力を握れない奴は負け犬だ。俺は、組織のお荷物になりたくない。まだまだ上を目指せる」という強烈なマッチョイズム。程度の差こそあれ「出世して権力を握らなければ漢(おとこ)にあらず」といったドグマに固執している点では、韓国のエリートと同じだ。
 
 本作品は、こうしたエリートの病理を巧みに表現している。ただ、ナレーションが多すぎて、冗漫で退屈に感じる場面もあり。総合評価は、まずまずというところだと思う。
真一

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