りっく

ラッキーのりっくのレビュー・感想・評価

ラッキー(2017年製作の映画)
3.9
冒頭でまずハリーディーンスタントンの肉体を映し出す。朝起きたら、音楽をかけ、歯を磨き、ヒゲを剃り、ヨガをし、牛乳を飲み、タバコを吸う。一人暮らしの老人=西部がよく似合うアメリカを体現するような俳優が、人目に晒されない所で見せる老いた身体。その後、彼はカーボーイ風の格好で行きつけの店でコーヒーを飲むのだが、その服装=アメリカ的男性像の中に、老いた身体を閉じ込めているように見えてくる。

彼は劇中でたびたび呟く。現実は物体であると。そして物体はいつか無くなり、空(くう)になる。だがそれは決して哀しいことではない。そういう状態になったら微笑めばいいさと。かつて海軍に所属し、喧嘩っ早く、子供も持たず結婚もしない人生を歩んできた彼。そんな彼が歩む終わり近き日常と、彼を取り巻く人々と自然。その限られた、だがその中にも豊かさはあるのだと感じさせてくれる。

デビッドリンチ(本人も行方不明になったリクガメに遺産相続しようとする男として登場するが)の娘がメガホンを取ったからだろうか、どこか「ストレイトストーリー」を思い出させる。簡素で単純だからこそ、含蓄があり味わいのある良作に仕上がっている。
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