支配-被支配の醜くも美しい綱引き──上流階級に身を置いていたアビゲイルは馬車からぬかるんだ地面に放り出される。文字通り地に堕ちるオープニングから知略とバイタリティを駆使して這い上がっていくアビゲイル。ランティモスには珍しく不快描写は控えめ(?)の親しみやすい寓話でした。ランティモス作品において支配-被支配の構造は完全に所与の条件で、物語上でもその存在理由が詳しく説明されることはない。利用しようとする者と取り入ろうとする者の、醜くも美しい綱引き。そこには愛とは程遠い、けれども愛おしい何かが確かにある。
直近、ランティモス作品を一気に4作品観て、最初は抵抗感もあったけどだんだんと好きになってきた。ゴテゴテに塗り固められたツラの内に目を凝らすと、人間臭く哀しい優しさみたいなものが見えてくる。こんなことならもっと早く手を出しておけばよかった。朕の御付きのお気に入り作家に迎え入れてやってもよかろうなのだ。