とにかく極端に俗っぽさを強調した18世紀イギリス宮廷ブラック絵巻。
余韻を感じさせる前に画面が切り替わるような編集のテンポが独特で、それが一つ一つのエピソードに切れ味を与えている。
魚眼レンズの多様で歪みに歪みまくった画面のクドさが、歪んだ宮廷事情をわかりやすく象徴していて良かった。極端に歪められた空間は圧迫感や閉塞感を演出している。その狭い空間で動き回る人物たちの姿が、冷笑的な眼差しで切り取られる。
同じく18世紀イギリスの上流階級を舞台にした『バリー・リンドン』がルネサンス古典主義だとしたら、こっちはマニエリスム(それこそパルミジャニーノの『凸面鏡の自画像』を彷彿とさせる)。
あくまでクラシカルで落ち着いた静的な画面構成を好むキューブリックと違って、歪んだ画面やダイナミックなカメラワークを駆使するランティモス。対照的なスタイルを駆使する両者なんだけど、性格の悪さは共通しているようにも思えた(対象に対する冷ややかで超越的なまなざし)。
それにあのラスト。「今まで見てきたものはなんだったのか」と言いたくなる、冷や水をぶっかけられたようなラストに痺れました。