アキラナウェイ

ナチュラルウーマンのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

ナチュラルウーマン(2017年製作の映画)
4.1
いや、何にビックリしたって、主演のダニエラ・ヴェガよ。チリの女優でメゾソプラノ歌手である彼女。予備知識を持たなければ、綺麗な女性として誰もが認識する筈。

少なくとも僕は、綺麗な女性だなァ、と本作を観ていた。

否、トランスジェンダーなり。

そうか、そういう物語なのか。

チリのサンティアゴ。トランスジェンダーの歌姫マリーナ(ダニエラ・ヴェガ)は、恋人であるオルランドが息を引き取るのを間近で看取るが、彼の親族から執拗に煙たがられ、通夜にも葬式にも参列しない様に忠告されてしまう—— 。

最愛の人を亡くしたのに、
彼女は泣かない。

男オンナ。
キマイラ(怪物)。
変態。

耳を覆いたくなる程の罵詈雑言が、矢の様に彼女に降り注ぐ。

こんなにも罵られて、
こんなにも傷付けられても、
彼女は泣かない。

男達に囲まれ、首根っこを掴まれて、車に引き摺り込まれ、セロテープで顔面をぐるぐる巻きにされても、
彼女は泣かない。

でも、最後に彼と対面した時に流れる涙が、溜めて溜めて流された涙だと知っていたから、辛い。

元夫が、亡き父が、
愛したその女(ひと)を
何故敬う事が出来ないのだろう。

もう世の中はオトコとオンナの世界じゃなくなっているんだって。性はグラデーション。二元論で語る時代はとうに終わっているんだって。

マリーナの美しい歌声をバックに
抗いきれない程の強風に晒されるシーンが、
この映画の真価を格段に上げている。

マイケル・ジャクソンのスリラー並みに傾いてしまう程の強風!!

彼女がこの世界で、如何に強い風に吹き付けられているかのメタファーだよね。時折挿入される、ファンタジックな映像が、何せ素晴らしい。

鏡の使い方が特徴的。

それはつまり、自分がどの様に見られているかという、彼女が永遠に問い続けている疑問であるから。

男っぽい。
女っぽい。
そんな無慈悲な言葉を浴びせられ続けてきたトランスジェンダーの苦しみが、本作では余す事なく描かれている。

オトコでも、オンナでも、愛している人とのお別れはさせてあげようよ…。

第90回アカデミー賞外国語映画賞受賞。

それだけの力が、この作品には確かに在る。