チッコーネ

ナチュラルウーマンのチッコーネのレビュー・感想・評価

ナチュラルウーマン(2017年製作の映画)
3.5
LGBTのTの物語。

主人公を軸に「私、私」という展開になってしまうのはトランスものの宿命なのか。最愛のシェルターを失うことで、苛烈な現実に直面したヒロインが、常に頑なで不機嫌そうな顔をしているのが印象的。ビニールテープで巻かれた顔は「エッケホモ」そのものだった。しかし、他者を慮る余裕を失った人物像が、いまひとつ魅力に欠けるのも事実だ。

展開の割に映画全体のリズムは緩やかで、自然光を活かした明るい色調の場面も多い。
また歌手であるヒロインが呼吸を整え、発声する「音」を耳にすると、鑑賞者の裡なるざわめきも沈静化されていく。こうしたデティールに、孤立と背中合わせにある者が会得してきた「知恵」が生きている。