黒猫道

ミスター・ロンリーの黒猫道のレビュー・感想・評価

ミスター・ロンリー(2007年製作の映画)
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2014/08/09
ああ、もう少し目が大きければ。
ああ、もう少し背が高ければ。
ああ、もう少し鼻が高ければ。
そんな叶いもしない願いをしょっちゅう抱いてる僕にとってはチクリと胸が痛むような、そして何かを赦せたような、そんな映画だった。

誰かを自分ではない他の人間を演じて生きることは大変ではあるけれど、また同時に、"救い"でもある。登場人物たちはスターを演じる人間たちで寄り集まり暮らし、ユートピアを創り上げようとした。
しかし、それは上手くいかなかった。
なぜならそこは虚構の世界でしかないから。
外面は美しい理想郷のようでありながら、羊たちの死や恋愛沙汰によって剥き出しの"生"が露呈する。そして、最愛の人の死によって"マイケル・ジャクソン"は誰でもない自分自身の感情と向き合い、去ることを選んだんだ。

それにしてもドニ・ラヴァンとレオス・カラックスのコンビは凄まじい。ラヴァンの演技はまさに"怪演"といったところだし、カラックスは登場時間は短いくせに本作の重要なエッセンスになっていて、存在感バッチリ。
このカラックスに関して気になる点がいくつか。
カラックスは終盤、主人公がマイケル・ジャクソンを演じることをやめ、彼自身として生きることに反対していた。
「今まで失敗してきたやつをたくさん見てきた」からって。
でも、あれどうにも本心じゃないような感じがするんだよな。
カラックスの最新作『ホーリー・モーターズ』にこんなセリフがある。
「お前の罰は、お前がお前として生きることだ。」
人はみな無意識のうちに社会に期待され、こうあるべきだと思い込んだ自分を演じている。そんな世界の中で自分として生きることは大変困難で"孤独(lonely)な"道のりだ。
しかし、だからこそカラックスはそんな生き方を肯定しているのではないだろうか。
マイケル・ジャクソンの仮面を捨てた主人公に忠告しながら、また、祝福しているような気がしてならない。
なんだかニーチェのような強さを感じる。

ところで合間に挿入されるシスターたちの話もかなり象徴的だけど、あれはどうなんだろう。
最初は奇跡だの神の御業だとか言ってて、すごく西洋的で嫌いだったんだけど、申し訳ないけど、最後のシーンでスッキリした。
まさに「神は死んだ」じゃないけれど、やっぱり実存主義的な感じがしなくもない。ただ、本筋から少しだけ離れている気がして必要なかったんじゃないかな…って個人的には思ってる。たぶん僕の読みが足りないだけだろうけど笑

見ている最中はそれほど好きな映画だと思わなかったのに、見終わったらまたもう一度見たくなるような、不思議な作品。
それにしてもサントラ欲しいな。。
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