イチロヲ

ドグラ・マグラのイチロヲのレビュー・感想・評価

ドグラ・マグラ(1988年製作の映画)
4.8
精神科の病棟で治療を受けている記憶喪失の少年が、虚実の皮膜に迷いながらも、自分が何者であるのかを追究していく。あらゆる分野からモチーフを引用することにより、物語の解釈を読み手に委ねる、所謂「解釈に正解のない小説」を映像化した作品。私は原作をかなり昔に読んでいるが、断片的にしか覚えていない。

原作から精神分析のシークエンスを抜き出して、再構成したような内容になっている。物語の入れ子構造から舞台の装飾美術に至るまで、原作の奇怪なムードを壊さないように、精緻な作業によって映像化されているのが理解できる。(美術監督の木村威夫は、鈴木清順の右腕として活躍した人物)

役者陣では、エキセントリックな精神科医を嬉々として演じている桂枝雀師匠が素晴らしい。高座のまくらのような調子で「人間の脳の不思議」を言及するところや、あほだら経を唱えながら跳びまわる場面が最高に面白い。

原作と比べてストーリー・ラインを楽に追っていけるし、解釈の正解らしきものをおぼろげに汲み取ることもできる。日本映画ならではのエキゾチックな世界観に没入することができる秀作。デヴィッド・リンチ作品との類似性を指摘する声が多いことも宜なるかな。(ちなみに、原作は1935年刊行!)