イチロヲ

ドグラ・マグラのイチロヲのレビュー・感想・評価

ドグラ・マグラ(1988年製作の映画)
4.0
病室で目覚めた記憶喪失の少年が、先祖の猟奇性が心理遺伝していることに気づかされる。夢野久作の同名小説を映像化している、サイコ・スリラー。筆者は原作を読了済み。

原作から精神分析のシークエンスを抜粋して、再構成させたような内容。殺人事件に関与する少年(松田洋治)、心理遺伝の要因を探る法医学者(室田日出男)、少年の自己像幻視を見抜く精神科医(桂枝雀)。この3名が、虚実入り交じったドラマを紡いでいく。

役者陣では、エキセントリックな精神科医役を演じる、落語家・桂枝雀が強烈なインパクトを残す。高座のまくらの調子で「人間の脳の不思議」に言及する場面と、「あほだら経」を唱えながら跳びまわる場面が面白い。

松本俊夫と大和屋竺の化学反応が十二分に発揮されており、物語の入れ子構造から雰囲気作りまで、職人業を感受することができる。あまりにも洗練されているため、「混沌とした世界観が再現されていない」という捉え方もできるが、個人的には擁護したい作品。
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