垂直落下式サミング

映画ドラえもん のび太の宝島の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.3
油絵みたいなポスターが激エモ。青とエモの川上元気成分注入っ!藤子Fの精神性は消えていったけれど、引き換えに底上げされたのはエンタメ性。ドラえもん映画って、こんなに面白かったっけ?ばちこり大冒険。ぬるぬる動く。どどどどどどどどどっどドラえもんっ!主題歌は星野源なんだぜっ!
よかったのは、開幕の空き地のシーン。子供たちがダベってて、のび太が宝島に行きたがる動機づくりになるところ。
劇場版では出番が少なくハブられがちな出木杉くんが、最近スティーブンソンの宝島を読んだから影響されて二次創作みたいな小説を書いているんだって、ぜんぜん嫌味なところがなくみんなの前で話してるのに、それに嫉妬したのび太が「小説なんかなんだい!ホントの宝島にいこうよ!」とか割って入って言い出すのが、ほんっとにヤな感じ…。出木杉のほうが、年相応の子供らしくてかわいいよ。
そうだった。のび太って、そもそもムカつくやつだったなって、いつの日からから忘れてたコイツのダメさを再確認。『結婚前夜』でしずかちゃんのパパが、あの青年の取り柄は優しさだとか言うから、後のエピソードではそこばっか掘り下げられるけど、のび太って本来そういうヤツじゃないんだよな。バカで怠惰で嫌なヤツだから、順当に人生の敗者になっていくコイツをドラえもんは救わなきゃなんないわけで…。
映画になるとジャイアンがいいヤツになるってのがよく言われるお約束だけれど、感情移入を阻害しないためにキャラクターの性格がマイルドなものにナーフされるという点においては、のび太も相当だと思う。
毎度ドラえもん映画は、バトルの相手となる敵の設定に苦心しているような気がするけど、今回の敵役はかなりよかった。愛する女との死別で、科学者としても父親としてもダメになってしまった時空海賊のキャプテン・シルバー。愛情や責任感が強すぎるゆえに、視野が狭くなって暴走してしまう悪者っていうのに強く共感する。こういう悪役だいすき。父親と、あんまりうまくいっていない僕には、こんなの刺さっちゃうんだよな。
本人の回想で、育児と研究を両立できないストレスから、実の息子に手を上げてしまった記憶を差し込んでいるのもグッド。これは、もはや国民的アニメの記号化されたキャラクターとして定着してしまったのび太家のパパやママでは描けない子育て世代の十字架であると思う。
のび太パパって、しんちゃんパパの野原ひろしと違って、けっこう旧態依然とした昭和的な亭主関白オヤジだと思ってたんだけど、息子の教育のことにはママに頭が上がらない人なんだな。意外だった。もともと温厚な人なんだっけか?家だとたいてい着物でいるから、「コロリころげた木の根っこ」とゴッチャになってたかも。
それにしても、昭和じゃなくて現代を舞台にしているから、かなり驚いた。序盤のほうで、ドラえもんの口から「インターネットで世界中どこでもみれる時代なのに宝島なんてあるわけない」という言葉が出てくるから、現代なんでしょう。
そのわりには、スマホとか使ってる人たちは見当たらなかったけども…。永遠の70年代って認識だったんだけどな~。強固だったドラえもんの世界観に、大きな陰りをおとす新設定だと思う。
アラサーおじさんファンとしては、ミニドラ復活がうれしい。ドラえもんズも復活してほしいな。キッド、王ドラ、ドラニコフ、ドラリーニョ、ドラメッド三世、エルマタドーラ、あいつらいまどこでなにしてんやろか。