MOE

ハイキュー!! コンセプトの戦いのMOEのレビュー・感想・評価

2.8
パンフレットで監督が仰るには、この白鳥沢戦について「総集編を作らない方がいい」っていう思いもあったそう。正直、私も観ながら近いことを感じた。出来上がっているものが不満ということではない。原作のあのストーリーについて、削れるものが本当には一つもないということ。それを痛感した。

私はハイキュー!!を語る時、よく「平家物語」を引き合いに出す。中世のある武家勢力(無理やりに喩えると、日本の最高権力に最も近づいたマフィア)に捧げる追悼の物語であり鎮魂歌。それゆえに、彼らが輝いた様々な戦が章ごとに描かれている。その武人がどんな背景を背負っていたのか、どれほど鮮烈な光を放って散って行ったのか。
「〜の戦い」と称される章ごとに少しづつ変わる物語のカラーはまるで、1セットごとに輝くメインプレイヤーを据えていたあの白鳥沢戦の5セットマッチによく似ているし、敵味方問わず「何を背負ってここにいるのか」がかなり雄弁に語られていたのも、平家物語の武人の語り方によく似ていると思う。

青葉城西戦が、その軸として単行本1巻から続く「及川徹と影山との確執」に決着をつける物語で、ある意味で「及川徹の葬送の舞台の立役者」としてプレイヤーが創造されていたのに対して、白鳥沢のプレイヤーは誰もが強い我を持っていて、自分だけのストーリーを持っているように初めから創造された、そんな風に見える。目に見えるのはボールを使った派手で重厚な殴り合い。だからこそ月島が細く張り巡らせ、白布が抗えなかった策謀の伏線が映える。あれほど華やかだった武士団が、徐々に崩されて滅びへと追い落とされていく、そのじわじわとすりよる不吉な予感は、戦う武器がボールでも太刀でも同じ。

月島が1セット目から巡らせた策略が、最後の最後に咲うことになった驚愕はやっぱりあの原作の尺ならではのものなんだろうと思う。ここまで、試合の流れもパワープレイも策謀もキャラクター造形も、どれをとっても際立って面白い一試合が、更にもう一段階メタの読みでは「日本式バレーボールへの批評」になっているの、本当に最高にロック。白鳥沢のようなパワーに頼るチームメイクのコンセプトは、確かに華やかな一時代を築いたものだけれど、「進化を止めた者に生存はない」。貪欲に新戦術を試し、自分のものにしていく挑戦者・烏野のコンセプトは、現代最高峰のブラジルチームを想起させるもの。

壮大な人間ドラマと華やかな戦いの数々、そして「滅びゆく」最強の武人に手向けられるはなむけ。その物語が平家物語であるとすれば、同じものを白鳥沢戦も内包していて、回想一つ・ワンチ描写一つ・省略が難しい濃密な物語だということ。更にその上で、「現代バレーへの批評」という新しい視点を明らかにし始めた、それが原作の白鳥沢戦。ほんとうに、大好きだと思いました。だから私は、残念ながらこの章については原作に軍配を挙げたい。
青葉城西戦は、いつでも自分に元気と次に踏み出すガッツを与えてくれる物語で、白鳥沢戦は完璧な群像劇。
MOE

MOE