Eike

クワイエット・プレイスのEikeのレビュー・感想・評価

クワイエット・プレイス(2018年製作の映画)
3.3
内容は完全なB級モンスターホラーで、説明不足や不合理な描写も目につく作品ではありますが興収面・批評面でも成功を収めたスマッシュヒット作。
製作費はおよぞ20億円程度ですがアメリカだけでその10倍近く稼ぎ出しており、結果としてシリーズ化されすでに第2弾も公開済み。

お話の設定自体にはさして新鮮味がある訳ではない。
突如地上に出現した謎のクリーチャーによって人類文明は崩壊寸前。
主人公たちの一家は片田舎で文字通り「息を殺して」サバイバルを続けているのですがヒロイン(E・ブラント)の出産が近づいたある日、突然の危機に直面することに…。

本作の大きな特徴はやはりほぼ「無言劇」に近い(サイレント映画ではない)こと。
それは脅威となるクリーチャーが「音」を認識することで相手を補足するため。
そのため演技陣のセリフは最小限にとどめられており、通常の会話はサイン・ランゲージで進行されております。
それが不自然にならないように一家の長女が元々耳が不自由だったという設定となっております(それが後半大きなカギとなる)。

文明崩壊を描いた作品は数多い訳で珍しくもない訳ですが、この「音を立ててはならぬ」という設定に関する描写をリアルかつ丁寧に描くことでこの家族の置かれているストレス環境が見る側に巧く伝わってくる工夫が本作の大きな特徴。
その静寂が破られると何が起きるのかを見せつけるショッキングなオープニングシークエンスの効果は抜群で、本来ならバカバカしさも浮かびそうな設定が一気に緊迫感に満ちたサスペンスドラマの道具として観客のハートを鷲掴み。

巧いと思ったのは約90分の作品の時間配分。約50分過ぎ辺りまで派手な見せ場はほぼ出さず、じっくりとこの家族の置かれた状況を提示している点。
その部分、通常のアメリカ製B級ホラーとしての色を自覚的に打ち出すような作品なら間延びして観客の関心を失ってしまう可能性が高かったのではと思うのですが、実生活でもご夫婦であるブラント女史と本作の監督でもあるJ・クラシンスキの演技は手堅く、きっちり家族ドラマとしての体裁も整えております。
そして後半30分は、一転してノンストップで一気にスリルと恐怖のドミノ倒し状態。
きっちり家族のドラマが描かれているおかげで関心を失われずに済みました。
ここまでストレートな展開の作品も最近では珍しい訳ですが、逆に新鮮な印象を受けました。

台詞が極端に少ない分、演技陣には表現力が求められる点も多い訳ですが子役の二人もなかなかに達者で、ドラマとしてもきちんと見れるものになっているのは嬉しい驚き。
それと「音」が重要な役割を果たしており、吹く風や広がるトウモロコシ畑の葉がすれる音など自然の環境音が強調されており、その静寂とそれが破られる事で生じるインパクトの生かし方も巧い。
緊急事態を知らせる赤い照明の醸し出す計算された緊迫感などもお見事です。

この田舎の一軒家とそれを囲むトウモロコシ畑、丘の上に建つトウモロコシ保管用のサイロ塔を含めたランドスケープの構成も見応えあり。
てっきりロケ用に借りだしたものと思いきや、本作の為に、わざわざトウモロコシ畑を造成するところから始めたということで、その点はさすがにアメリカ映画であります。

肝心のクリーチャーの正体などについてはほとんど説明もなく、本来なら不満が生じそうなものだがドラマ面がしっかりしているお陰で意外と気にならない。
ただこの化け物が全編CGというのは個人的に少し味気無さが残るかな。
流血シーンなども出ては来ますがゴア度は高くありませんので「ホラー食わず嫌いな女性陣」にも見ていただきたい作品となっております。
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