MasaichiYaguchi

ブレス しあわせの呼吸のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ブレス しあわせの呼吸(2017年製作の映画)
4.0
映画プロデューサーのジョナサン・カヴェンディッシュの両親の実話を元に、イギリスの俳優アンディ・サーキスがアンドリュー・ガーフィールド主演で初監督した本作は、暗く重くなりがちな障害者物であるにも拘らず、笑いや優しさ、希望やポジティブさに満ちていて、観ていて明日への勇気や力が湧いてくる。
主人公のロビン・カヴェンデッシュは、運命的に出会って一目惚れした憧れの女性ダイアナと結婚し、赤ちゃんも出来たという幸せの絶頂期にポリオという病魔に襲われてしまう。
ポリオはポリオウィルスによって引き起こされ、手足に急性麻痺が現れる病気で、現在の医療技術でも発症してしまうと完治させるのは困難で、ワクチン接種による予防しか手立てがない。
首から下が麻痺し、自律で呼吸も出来なくなったロビンは人工呼吸器がなければ生きられなくなってしまう。
普通なら死ぬまで病院で寝た切り生活ということになるが、ロビンとダイアナの夫妻はそうはならない。
「病は気から」というけれど、この夫婦、特に妻ダイアナのどんなに絶望的な状況でも諦めない強さ、夫ロビンに対する愛の深さには頭を垂れるしかない。
そして夫妻を精神的だけでなく物理的にも支える周囲の人々、ダイアナの双子の兄、テディをはじめとした友人達が、困難に打ち勝つようなポジティブさと笑いを与えていく。
一般的に幸せとは、健康に恵まれ、名声を得て富を蓄えることと考える人が多いと思うが、この光と温もりに満ちた本作を観ていると、本当にそうなのかと思ってしまう。
有名人でも、お金持ちであっても、必ずしも幸せな家庭が築けるとは限らない。
本作の主人公は首から下が全て麻痺して人工呼吸器が手放せず、ベッドに横たわっているにしろ、車椅子で移動するにしろ、誰かしらの手助けが必要であり、そのことによって妻をはじめとして周囲の人々から自由を奪い、負担や迷惑を掛け続けることに忸怩たる思いに苛まれている筈なのに、彼の周りには明るさや笑いが弾けている。
私は、幸福とは「良質な人間関係」にこそあるのではないかと思う。
本作で描かれた〝幸せのかたち〟を通して、夫婦とは家族とは、良い友人関係とは、そして生きるとは何かということを見詰め直したくなります。