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金子文子と朴烈/朴烈(パクヨル) 植民地からのアナキストのmaiのレビュー・感想・評価

4.7
史実を基にした作品の中でも群を抜いて好きでした。
ユーモアや明るさを織り交ぜてくれるおかげで暗くなりすぎない、勢いのある作品に仕上がっているとともに、そんな雰囲気の中にスッと金子文子や朴烈の境遇や考えを含ませるのでハッとさせられるし、彼らの本質が見えてきて考えさせられました。

金子文子の愛らしさ(愛嬌)とたくましさ、精神的強さがあまりにも魅力的すぎて、終始彼女に見入ってしまいました。
そして、朴烈が彼女を信じ(逆もまた同じ)、正しさを信じた姿があまりにも潔くて素晴らしかったです。

この映画の予告編を見た限りでは、映画の主たる部分は日本政府の傍若無人ぶりを的にした恋愛物語なのかと思っていました。
しかし、見始めて気づくのですが、この映画は無闇に日本を責めたいわけでも、自分たちの歴史的考えを知らしめたいわけでもないのです。
むしろあったことに忠実に映画を作ってるのだろうなと思いました(わたしは歴史に詳しいわけではないので、ほんとうに忠実かどうかは専門家に任せますが…)。彼ら2人が心の拠り所にしていたのは、お互いへの信頼と正しい行いへの崇拝で、彼らを人として踏みにじった者たちへの怒りでした。
その感情は時に荒々しすぎたけれど、その真っ直ぐさに心を打たれました。
また、要所要所に彼らを応援してくれる日本人を描いてくれてるあたりも嬉しく感じました。また、朴烈は「民衆には親しみを感じる」と言ってくれるのです。その姿に、現在の日韓関係が透けてみえました。

戦時下ではない現日本においても、天皇は特別な存在です。もちろん、それは現天皇の言動が人への温かみを感じさせるものであるからなのですが、今でも愛される天皇を思うと、当時の天皇批判をしたことに対するバッシングは相当なものだったろうと感じます。そこをはねのけて、自分たちの正しさのために死も恐れなかった2人の姿は凄すぎます。

ひとつだけ…この映画製作に日本人も多く関わってくれてたら良かったのにと思います。
やっぱり日本語は聞き取りにくい(発音の関係でサ行・タ行は難しいみたいでした)し、政府内での会話内容があまりにも簡素すぎました(すごく厳かそうにしてるのに、内容は保身のことばかり…とかにした方が、より滑稽に写せたと思います)。加えて、裁判所での服装は…当時あんな感じの服を裁判所側は着ていたのでしょうか…?服の装飾が韓国っぽくて、そこだけは「?」となりました。

題材がすごくいい上に、主演の2人が日本語も上手で演技も上手。特に、金子文子役の人は本当に自然な日本語で、かつ魅力に溢れてました。
また韓国に肩入れした映画では決してなく、歴史を尊重していこうという気概を感じました。
いつか、このような映画を日韓で共同で作れたなら良いのになぁとも思いました(日本政府を痛烈に批判した映画なので、関係性が上向いたとしても共同制作は難しいと思いますが)。
また歴史をちゃんと学びたいです。
mai

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