りぐぼん

さよならの朝に約束の花をかざろうのりぐぼんのレビュー・感想・評価

5.0
自分で産み落としていない子供の母となり、幸せを享受したマキア。
自分で産み落とした子供の母になれず、不幸となったレイリア。
イオルフの民のルールに背き、未来に向けて時間を進めたマキアとレイリア。
盲目的にルールの遵守を求め、時間を止めたクリム。
自身の子供との別れの際。
「忘れない」ことを誓ったマキア。
「忘れる」ことを願ったレイリア。
「机」と、「机じゃないもの」があるから我々は「机」を認識できる。
この「母」であり主人格である2人の対比が、この物語の広がりと深みを作り、我々に大事なことを教えてくれる。

人は世界と無関係でいられない。
人は人と本当の意味で無関係になれない。
今自分が文字を書けること、思考できること、それら全ては幼い頃に教わったから出来るのだ。
親から子へ、子から孫へ、「次の世代が少しでも豊かに」と蒔かれた善意の種から生まれた果実を我々は頂き、成長したのだ。
そして次は我々が善意の種を蒔き、自分の子が、次の世代が我々よりも少しだけ豊かになるように育んでいく。
そうした善意を繋ぐことがこの世界に生まれ、果実を食べた者としての義務であり責任であると思う。

大層な理想を実現する必要はない。
人を愛し、子を産み、慈しむ。
当たり前の人の営みを我々は続ける必要があるのだと、この物語は教えてくれる。
りぐぼん

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