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フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のlpのレビュー・感想・評価

4.8
「アカデミー賞案件だし、観ておくかー。」ってぐらいの軽い気持ちで鑑賞したのだけれども、これが思わぬ拾い物。いや、今年ベスト級の大傑作だった!

監督はショーン・ベイカー。前作の『タンジェリン』も各所で絶賛されていたけど、個人的には出てくる世界の縁遠さにあまり嵌まらなかった。しかし、今作はメチャクチャ良い!

定住できる家を借りるだけのお金もなく、フロリダ・ディズニーワールドの近くの安モーテルで暮らす、ある母娘の物語。鑑賞後の今だからこそ言えるのだけれども、この設定の時点でもう素晴らしい。「世界中の誰もが知る夢の世界」に対する「世界の誰からも注目されない厳しい世界」と、「モーテルで暮らす貧しい人々」に対する「観光地を訪れる豊かな人々」という2つの対比を一発で成立させている。
劇中でもこの対比は活用されていて、安モーテルの上空は観光客を乗せたヘリが頻繁に飛び交い、その轟音がモーテルで暮らす人々の声をかき消す描写は、貧しい人々の声が豊かな人々へ届かない(実際にモーテルの住民はヘリに向けて中指を立てるが、ヘリからはそれが見える訳がない)こと。そして、豊かな人々が貧しい人々を注視していないことへの暗喩に感じた。巧い。

貧困を描いた映画と聞くと、悲劇的な話だと思われそうだけど、今作は無邪気な幼い娘を軸にドラマを展開するため、基本的には非常に明るくてカラッとしている。映像も建物や空の色が明るくて色鮮やか。演じる子役達の素晴らしさも相まって、子供たちの無邪気な世界にしばし浸っていたくなってしまう。

しかしその一方で、母親を取り巻く環境は非常にシビア。定職に就こうとすれば面接で全て落とされ、公的扶助も受けられず、バッタ物(?)の香水を観光客に売りつけて日銭を稼ぎ、食事は同じモーテルで暮らすママ友が勤める飲食店のワッフル。子供の無邪気さに救われているけれど、かなりのジリ貧生活だ。

しかも監督のショーン・ベイカーは恐ろしいことに、貧困に苦しむ母娘を描きながら、観客が母親へ安易な共感を示すことを拒む。つまり、母親のクズっぷりを真正面から描き、観客が母娘に対して安直に同情の念を抱かせないようにしている。この母親のクズ描写は凄まじく、劇中で最も良心的な人物として描かれるモーテルの管理人(ウィレム・デフォーが好演!)に、少し注意されただけで、激しく罵倒した上に○○○○まで投げつけるあり様。とてもじゃないけど、この母親には同情し難い。

そんな「無邪気な子供たち」と「厳しい現実を生きる大人たち」という対照的な世界を平行して描く今作は、子供たちの無邪気さが「ある事件」を引き起こした日を境に、全ての歯車がドン底に向かって狂いだす。この先はネタバレ防止のために書かないけれど、負のスパイラルの中でも日常の輝きが一瞬顔を覗かせたりして心を掴まれた。そして本当に意表を突くラスト。あの躍動感は、是非とも劇場で体感して欲しい!そして驚いて欲しい!

ちなみに個人的には絶賛していますが、母親と娘の行動が許せず、批判の声も聞かれることは頷ける。無邪気さと幼さで誤魔化しているけど、確かに娘のやってる行動自体は誉められたものではないので。

賛否は分かれると思うけど、見逃してしまうには勿体無い映画です。ぜひ観て欲しい!
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